愛を叫んで地に堕ちて〈全イラスト41枚つき恋愛ホラー〉
 今年は十七年に一度羽化し、大量発生する蝉の当たり年らしい。

 蝉の鳴き声は、例年に比べて、激しく、強く。

 まるで、晴天の空から、強い雨が降るように、鳴き声は響く。

 蝉時雨(せみしぐれ)。

 まさに、そんな言葉がふさわしい。

 その。

 騒がしく、炎天下に揺らめくアスファルトの道を、左手から血を流し青年が一人。

 ふらふらとよろめくように、歩いていたのだ。

 平日の昼間である。

 まばらに道を行き来する人々は、社会から引退した老人か、小さな子どもの手を引いた、母親たちばかりだ。

 皆、少しでも涼しさを得ようと、木陰を探しながら歩くから。

 歩道がどんなに広くても。

 行き交う人は、すぐ側を通り抜けることになる。

 そんな人々の一人。

 生後。

 ようやく外に出せるようになった赤ん坊をベビーカーに乗せて、道を急いでいた若い母親が、歩道で『彼』とすれ違いかけ……立ち止まった。

 ふらふらと道を歩いていた場違いの男が、タレント顔負けのイケメン……美男、だったからか?

 毎晩旦那を待ち、今現在も、その愛の結晶である子どもを連れていながら、ふと。

 浮気に走ってしまいそうになるほど、妖艶な雰囲気を持っていたからか?

 それは、否(いな)……
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