愛を叫んで地に堕ちて〈全イラスト41枚つき恋愛ホラー〉
 彼が、いつ貧血を起こしても不思議ではない量の血を、流れるまににしてるのに気がついたからだ。

 しかも、心配になって、声をかければ『今、自殺の最中』なんて、とんでもないことを言って笑っていた。

「ちょっ!
 何をふざけているんですか!
 早く血を止めないと、大変なことになりますよ!」

 無期限の育児休暇を決め込むまでは、看護師として働いていたらしい。

 若い母親は、青年の流れる血を見ても、そう怯むことはなかった。

 肩から下げていた大きなトートバッグから、自分の子ども用のガーゼのハンカチを二、三枚取り出してテキパキと止血を始める。

 ……寸前。

 彼は、迫って来るガーゼのハンカチから、ひょいと腕をかわした。

「……俺に触っては、いけません」

「何よ?
 血液疾患でもあるの……?」

 B型肝炎にHIV……その他もろもろ。

 血液に直接触ると感染率が高くなる病気を思い浮かべた母親に、青年は、笑う。

「いいえ」
 
< 4 / 90 >

この作品をシェア

pagetop