愛を叫んで地に堕ちて〈全イラスト41枚つき恋愛ホラー〉
 本当は。

 勇斗自身も自分の正体に疑問を持っていた。

 茂吉の出身の村の映像はない。

 晶左に出会うまでの生い立ちは、長く主従として一緒にいた、茂吉本人から聞いて知ったとしたら……?

 自分の過去の記憶を思い出しているのにも関わらず。

『自分自身』の姿を真正面から見ることは、出来ない。

 なのに、勇斗は、剣を構えた茂吉の姿を見。

 鏡に映った以外、勇斗は、晶左の姿を見ていなかったことを鑑みると。

 勇斗自身は、確かに晶左だ、と思い出してはいたのだが。

 それを認めてしまうと、今度は、自分が、真珠と一緒に居る権利が無くなりそうで。

 自分が、茂吉じゃないなんて、認めたくなかったのだ。

 けれども。

 どちらが茂吉か……

 ひいては、この世に生きる真珠を、自分のものにする権利をどちらが持っているのか。

 凪と口論になった挙げ句。

 これでも食らって、思い出せ、と。

 凪に、日本刀で斬りつけられて、勇斗には、思い出した記憶があった。

 だから、勇斗は、今でも胸を張って『真珠が欲しい』と言えたのだ。
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