愛を叫んで地に堕ちて〈全イラスト41枚つき恋愛ホラー〉
『自殺なんてしちゃいけないよ。
 幸福の順番が狂ってしまうからね』

 なんて。

 昔、どっかの女が真面目な顔をして、凪に諭したことがあったけれども。

 凪にとっての不幸は、真珠と一緒に居られないこと。

 真珠の愛を手に入れられないことだから。

 凪は、自殺をすることにためらいなんか、これっぽっちも感じてなかった。


 やれやれ……近くに百均ショップか、コンビニはあったかな?


 自分の手首を傷つけるための刃物を探しに、てくてくと歩きだした凪の背に、蝉時雨が降り注ぐ。

 その、一生の恋人を探すために、うるさいほどに鳴き、響く。

 蝉の声を聞きながら、凪はふと。

 自分は、蝉みたいだと思った。

 十七年間、幼虫(こどものころ)は、何もわからず土の中で暮らしてて。

 誰かを抱いて大人になり。

 前世の記憶を、太陽に暴かれるように思い出したとたん。

 たった七日、愛を叫んで死んでゆく。

 そんな、儚(はかな)い命の昆虫に、一瞬。

 自分を重ね合わせて、なにを莫迦な、と凪は首を振った。

 俺は、不老不死。

 永遠の時間(とき)の流れを泳ぎきる、強く逞(たくま)しい人魚なのに。

 
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