Liars' clovers
 生い茂る木の葉にちりばめられた空。

 雨露の宝石をまとった草花。

 雨上がり特有の土の匂い。



 エミルは思いきり息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。

 森と同じ色をした瞳は眩しそうに細められており、その下の口元はほころんでいる。

 ──とても満ち足りた表情をしていた。

 ぼくは彼女を見つめて笑顔の理由を考える。

 どうしてそんなに嬉しそうな顔をしているんだろう。

 誰にも見つからなかった達成感?
 緊張から解き放たれた解放感?

 どちらも違う気がしたけれど、正確な理由はわからなかった。

 周りを眺めるエミルと彼女を見つめるぼく。二人の間に心地のいい沈黙がおりた。

「ここに四つ葉のクローバーはあるかしら」

 先に沈黙を破ったのはエミルだった。

 目は景色からはなさずに問う。

「どうだろう。ぼくが見たのは丘だったから……」

「それならいまから探しましょう。ここはたくさん花が咲いてるもの、きっと四つ葉のクローバーもあるわ」

「……そうだね」

 スカートの裾が草についた雨の名残で濡れるのもかまわずに、エミルはかがみこんで野花を撫でた。

「きっと、あるわ」

 呟いたそれは必ず見つけてみせるという宣言に聞こえた。

 ぼくは無言でうなずいて、彼女のとなりにかがみこむ。
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