Liars' clovers
「うん。──はい、今日の『おみやげ』」

 そう言って一本、白い花を差し出した。『女の子は花が大好きなのよ』という母さんの言葉をもとに、選んだプレゼントだ。

 初訪問の日に彼女が花を喜んでくれたのが嬉しくて、ここに来るときは必ず道端に咲いている花の中で一番きれいなものを摘んでくるようにしていた。

「──ありがとう」

 はじめて花をあげたときと同じように彼女は微笑む。

 日光に触れるのを避け続けて透き通るように白くなった頬に、ほんの少し赤みがさした。

「今日も話を聞かせてくれるの?」

「もちろん。この間の、えっと──丘でボール遊びをしたときのことは話したかな?」

「ううん、まだ聞いてないわ。どんなことがあったの?」

「あのね……」

 これがいつものぼくらだった。

 いつも、とは言ってもこんな関係が始まってまだ一週間程度だったと思う。

 ぼくが彼女の部屋を訪れて最近あったことなんかの話をする。エミルはそれに耳をかたむけて彼女の知らない、外の世界に胸を弾ませる。

 ──でも、その日は『いつも』と違った。

 このあとぼくが彼女を誘拐したからだ。




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