ナツメ
でも、わたしは右手に茶碗を持って、ゴハンを口に運んだ。

咀嚼して飲み込む。
美味しい。

もうわたしは、あなたが手伝ってくれなくても、美味しく食事をすることができます。

だからそんな目で見ないで。


傷を負った動物を一時的に飼って、また野生へと戻す時のような人間の寂しい目。

わたしが一人ででも生きていけると知ってショックを受けているような目。


ただただ、口の中へと食べ物を詰め込んだ。

そうしないと泣いてしまいそうだ。
なにか言ってはいけないことを言ってしまいそうだ。


二人無言で食事を続けた。
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