ナツメ
「…行きなよ」


ナツメの声。
ばたんとドアが閉まる音。

ウィンカーの音が途絶えた。

車は発進しない。


もう鉛などついていないはずの足が、やたらと重たい。

のろのろと足を一歩二歩と踏みだしたところで、車が発進する音を聞いた。

振り向いたわたしに、車の排気ガスと砂埃。
目が霞んだ。


もういない。

ナツメはいない。

どこにもいない。



もう会えない。
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