あやふや
「うちになんか御用かしら」
訝しげな顔をした女性は千絵と同じ顔。
貴代の見知らぬ女性に見える。
「すいません。ここって田中さんの御宅じゃなかったです」
素知らぬ顔で考えておいた言葉を口にした。
「違います。きっと階を間違えたんじゃない?」
親切に答えてくれた女性。
「ごめんなさい。私今急いでいて、良かったら下のロビーで聞いてみるといいわ」
背を向け歩いていった。
踵の低いパンプスの音がその場に一人立ち尽くした貴代の耳に
いつまでも響いていた。