本気の恋の始め方
鮎子さんの口から語られる千野君は、まるで私の知っている千野君と違うから、なんだか緊張してしまう。
彼がどうして私なんかを好きになってくれたのか、疑問。
私にとっての千野君は、ちょっと可愛いわがままを言う、素敵な男の子、って感じだから。
「あ、ごめんね、私先に行くから!」
そうやってぼんやりしていたら、鮎子さんが急に、慌てたように立ち上がった。
「はい、お疲れ様です」
「何かされたらいつでも言うのよ!?」
そしてトレイを持って、バタバタと小走りに駆けていく。
その後ろ姿を何気なく見送ると、彼女の先を歩いていた男の人が肩越しに振り返る。
それは先に席を立ったはずの五所野緒君だった。
彼が鮎子さんに向かって一言二言、口にすると
鮎子さんは
「何言ってるのよ!」
と切れている。