本気の恋の始め方
「――」
全身から血の気が引いた。
ゆき?
女の子らしい名前……。
きっと彼女だ。
るうくんの彼女の名前だ……!
後頭部をガツンと殴られたようなショックを受ける。
よろよろとベッドから離れ、るうくんの部屋を、家を、鍵もかけないまま飛び出していた。
たった数メートル先の自宅のドアがとても遠かった。
ドアノブをつかんだ瞬間、マンションの廊下の奥からピンクの傘を手に持った、長い、きれいな髪の女のひとがこちらに向かってやってくるのが見えた。
見覚えのあるその姿に息が止まりそうになる。
彼女は硬直した私の横を何事もなくすうっと通り過ぎていき、そしてるうくんの部屋の前に立ち止まる。