本気の恋の始め方
目当てのファイルを引っ張りだしてスキャンしていると、
「今日、飲みに行かない?」
なんて女の子の声。
「今日はごめん。遅いから」
そう答えたのは……聞きなれた声の……
千早……?
「今日じゃなくてもいいよ?」
「うーん。ごめん。明日も明後日も、出張の準備で忙しいから」
苦笑する声。
やっぱり似てる。
「出張って?」
「関西支社」
「じゃあ私もついていっちゃおうかなぁ?」
媚びた声に胸がざらつく。
「じゃあ、俺戻るから」
人が動く気配に、とっさに資料をつかんでその場にしゃがみ込む。
ちらりと目線をあげると、書架の合間を歩く千早の姿が目に入った。
やっぱり千早だ。
「待ってぇ、私も戻る~そこまで一緒にいこ」
そして千早のあとを追いかけるのは――
新入社員ランキング(鮎子さん調べ)恋人にしたい第一位の橋本繭ちゃんで。
繭ちゃんに誘われてるの!?
千早と並んで歩く彼女の女らしい後ろ姿に、ひどい疎外感を覚えていた。