本気の恋の始め方
キーボードの上で停止する指。エクセルの数字が何度見ても頭に入っていかない。
頭の中はさっきの千早と繭ちゃんの場面でいっぱいだった。
千早……いつもあんな風に誘われてるの?
断り方もさらっとした感じだったけど、慣れてるような気もした。
千早のこといいと思う女の子は繭ちゃんだけじゃない。
彼は誰が見たって感じのいい男の子。
それに仕事もできて、上司の覚えもいいし……。
一般的にはフリーだって思われてるみたいだし。
私が知らないだけであんな状況はたくさんあるんだろうな。
考えただけで胸がどんよりと暗くなる。
だけどそもそもつきあってることは絶対に内緒にしたいと言ったのは私。
だって社内で期待の新人と付き合うなんて周囲からなんと思われるかわからないし、正直ちょっと怖いから。
だから頭ではわかってるんだけど――
忙しいってことを理由にしてやんわりと断っていた千早にモヤモヤする。