本気の恋の始め方
「あら、ごはん食べてないの?」
「仕事で帰りが遅いんで、たいていコンビニとか……」
「んまっ!」
お母さんは目を向いて驚き、それから私のほうに目を向ける。
「作って差し入れしてあげなさいよ、同じ街に住んでるんだから」
まるでるうくんを餓えさせる私が悪い、みたいな言い方にカチンときた。
「ちょっとお母さん……」
「おばさん、それはさすがに潤に悪いですよ。潤にはその――」
目線の端でるうくんが私を見つめる。
その目は『恋人がいるっていっとけ』って言っていた。
あんなことさえなければ言ってたかも。
会社につきあってるひとがいるって。
だけど……
「――」
言えなかった。
そんなこと言うと紹介しろってことになるだろうし。
別れるかも、振られるかも、って思ってる今の状況で、千早のことを紹介する勇気はない。
黙り込んだ私を見て、るうくんは何かを言いかけたけれど、結局口をつぐみ、お母さんのマシンガントークに耳を傾けていた。