本気の恋の始め方
「はい」
頭を上げた彼。
透明感のある千野君の瞳が私を見つめる。
「私ね、男の人と付き合ったことがないんだ」
「――じゃあ、やっぱり昨日」
「初めてでは、ないの」
「――」
私の言葉に、千野君が唇を結ぶ。
「どうしても好きな人がいて、一度だけ、抱いてくれなきゃ死んでやるってくらいの勢いで、彼に迫ったの。もう何年も前の話なんだけどね……」
私は玄関前の廊下に壁を背にして座り込む。
「最初から最後まで見込みのない恋だった。時間がたてば、きっといい思い出にして忘れられると思った……」
「だけど、忘れられなかった?」
千野君の言葉に、私は無言でうなずく。