本気の恋の始め方

「はい」



頭を上げた彼。


透明感のある千野君の瞳が私を見つめる。



「私ね、男の人と付き合ったことがないんだ」

「――じゃあ、やっぱり昨日」

「初めてでは、ないの」

「――」



私の言葉に、千野君が唇を結ぶ。



「どうしても好きな人がいて、一度だけ、抱いてくれなきゃ死んでやるってくらいの勢いで、彼に迫ったの。もう何年も前の話なんだけどね……」



私は玄関前の廊下に壁を背にして座り込む。



「最初から最後まで見込みのない恋だった。時間がたてば、きっといい思い出にして忘れられると思った……」

「だけど、忘れられなかった?」



千野君の言葉に、私は無言でうなずく。




< 35 / 446 >

この作品をシェア

pagetop