本気の恋の始め方
「今日はありがとう」
マンションのドアの前で、塁に軽く頭を下げる。
「ちゃんと飯食って、薬飲んで寝るんだぞ」
「――」
「こら。返事は」
本当はただの寝不足なのに、迎えに来てもらって、おまけに心配なんかしてもらって申し訳ない気持ちになる。
「うん……」
あいまいにうなずくと
「ちゃんと考えとけよ、欲しいもの」
塁は軽く微笑んで、私に持っていた荷物を手渡すと、あっさりと自分の家に帰ってしまった。
「――」
もっと話したい、なんて思ったけど……誘える理由もなにも思いつかない私は、ただ彼を見送ることしかできなくて。
お母さんに声をかけられるまで、ずっと、馬鹿みたいにその場に立ち尽くしていた。