夏の夜の海辺で【短編】
いち


夜風が濡れた跡のある頬を撫でて、とても心地よかった。

夏だというのに、夜になれば気温はとても快適なものとなる。


特に今日は、そんな日だった。

サクサクと砂浜を歩く足音が響いて、ザザーと波が押し寄せる音も私の耳にとどく。

その波が届くか届かないか、の位置に腰を降ろせば、砂浜を歩く音は無くなった。

辺りが急に静まりかえったような気がして、けれども波は行ったり来たり、私の足に触れるか触れないかの場所を音を発ててさ迷っている。


―――………ふられちゃった。


ずっと、ずっと好きで。

やっとの思いで告白して、それで付き合えた彼。

それからまた、ずっと付き合ってきて。

今日、ついに……と言うかなんと言うか。

ふられちゃった。


好きだよ。

ううん、好きだったよ。


どうしたって涙は溢れてきて、さっきせっかく止めたばかりだったのに、って心の中でため息をつくけれども、後から後から溢れてくる涙はもう止めることなんて出来ない。


滲む視界のままでじぃと押し寄せる波をみていれば、ふと砂浜を踏む音が聞こえる事に気が付いた。

海の向こう、水平線の上には沢山の星がでていて、こんな時間に誰だろう、と。

少しだけ横を向いた。


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