夏の夜の海辺で【短編】
「どうしたんだ」
「え、……?」
唐突に聞かれた事に驚いて、小さく声が出た。
「君が泣いているのに気付いてしまってね。どうも、気になって」
とても静かな声だった。
ゆっくりと私の隣に腰をかけながら、けれどもその顔は前を向いていて私の方に向かうことはない。
つられて私も前を見れば、やっぱり水平線は歪んだままだった。
「星が綺麗だ」
「うん」
「この辺りは夜がとても心地いいな。海が近いと程よく気温が下がってくれる」
「うん、」
「眠れそうにない夜は、こうして良くここに来てるんだ」
「…………、」
「きっと明日も眠れないんだろうな。だから俺は、明日もここにくる」
「…………うん。……、うん……っ…、」
ず、と鼻をすすった。
もう前を見ることなんて出来ずに、ただ下を向いて泣いた。
声は出さなかった。
彼も何も言わなかった。
だから、とても。
辺りは静かだった。
(今は、まだ。)
(でもすぐに、落ち着くから、だから……その時はまた)
(話を聞いてくれるんでしょう?)