夏の夜の海辺で【短編】
さん
さくりさくりと砂の音が耳に届く。
それに混じって、一定の感覚で押し寄せてくる波の音がとても滄溟な様をおもい浮かばせた。
昨日見た人影はないものかと、少しきょろきょろしながら歩く。
あの時、帰る間際に少し後ろを振り替えってあの男を見てみれば、手と足をおもいっきり広げてごろんと寝転がったところだった。
あ、意外と背が高いんだ。
同じ位置に座っていたというのに、波にざぶざぶと浸かる彼の足を見てそんな事を思ったのを覚えている。
今思えば、あのときすでに私はかなり落ち着いていたんだと思う。
なんてったって、そんな事を一瞬振り向いてみた間に考える事が出来たのだから。
今日は彼が来ているのが先だろうか、それとも私が来ているのが先だろうか。
兎に角わかるのは、今はもう辺りは暗く、けれども大学生が就寝するには早すぎるくらいの時間だということ。
とは言え、何故だか私には彼がいるような気がしてならない――………。
「あ、」
だって、案の定、彼は昨日会った場所で大きく手足を広げて寝転がっていたのだから。
女の勘とやらをなめては行けない。
そう思いながら、私が発した声に気付いて振り向く彼を見ていた。