ウッドレーン
一階に降りると、既に夕里子以外の家族は起きていた。挨拶を済ませ朝食の席に向かうと、テーブルにはスクランブルエッグとウインナー、サラダが並んでいる。父の幸蔵が夕里子の姿を見て、食パンをトースターにセットした。
「今日は出かけるんだな。誰とだ」
「小学校の時のお友達とよ。同窓会をするの」
答えてから、昨晩の電話内容を思い出す。
「いけない、裕作くんに、今日の予定を言ってなかったわ」
時計を見ると8時過ぎ。模試の真っ最中だ。少しばかり焦りながらも夕里子は席に着くと、トースターから焼き上がったパンを取り出し、マーガリンを塗ってスクランブルエッグを乗せた。妹の満里子が夕里子の真似をして、自分のパンにも同じことをする。夕里子がそれにケチャップでハートを描いてやると、満里子は幸蔵に見せびらかしながら食べはじめた。
母の早苗は庭仕事をしているようだ。テレビの天気予報では、昨日より少し暖かいと報じられている。窓の外は太陽が射していて、早苗が水をやった草木をきらきらと照らしていた。
「何だってこんな時期に同窓会なんだ。皆忙しいだろう」
暫くすると、幸蔵が食後のコーヒーを飲みながら尋ねた。視線は朝のニュースに向いたままだ。
「佳奈ちゃんがね、こんな時期だからこそどうかなって」
「佳奈ちゃん?」
「ほら、小学校卒業して、すぐに東京に越しちゃった子よ。よくうちに遊びに来てたじゃない」
幸蔵は納得したように頷くと、残りのコーヒーを飲み干した。
「こんな時期だからこそ、集まりたいんだって。私は勿論だいじょうぶだけど、受験でピリピリしてる子や学校に行かないで働いてる子なんか、誘うのに一苦労だったわ」
「そうか。まあ、あまり遅くなるなよ」
幸蔵はカップをテーブルに置くと、そう言っていそいそと庭に向かった。
夕里子は父の分まで食器を台所に持っていくと、ちょうど食べおわった満里子と洗い物をはじめた。窓から見える庭には、一緒に庭仕事をする両親の姿があった。