主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
氷の涙
『雪ちゃん、今日も会いに来たよ』
――…なんだようるさいな…誰だよ…。
『今日はね、銀さんからお誕生日に貰ったお花を持って来たの。ね、綺麗でしょ?』
…花…?
花って…なんだよ…
『雪ちゃんが水遣りを手伝ってくれたでしょ?雪ちゃんが居なかったら私…とっくの昔に庭のお花全部枯らしちゃってたかも。だから今もね、枯らさないように頑張ってるの』
…俺が…水遣りを…?
『雪ちゃんの観察日記なんだけど、もうつけはじめて1ケ月だよ?雪ちゃんの馬鹿、早く大きくなってよ』
…なんで俺がお前のために大きくならなきゃいけねんだよ…
つかお前、誰……
『息吹、ここに長居をするな。早く上がれ』
『あ、主さま。今日も雪ちゃんに変化はありませんでした、と…。ちゃんと書いておかなきゃ』
…主…さま…?
『…息吹』
『なあに?』
『…お前にひとつ不満がある』
『あ、夫婦喧嘩の気配!不満ってなあに?』
…なんだよ…こんなとこで痴話げんかすんなよな…
『一体いつになったら俺を“十六夜”と呼ぶ日が来るんだ?いつも主さま主さま…俺の真実の名は主さまじゃない』
『!だ、だって…照れるんだもん!主さまは主さまだもん。そういえば…雪ちゃんも名前を呼んでもらいたがってた。そんなに呼んでもらいたいものなの?』
『…惚れた女に名を呼ばれると震えるほどに嬉しいものだ。雪男もそうだったろう』
『そっか。…主さまのその件は保留!じゃあね、雪ちゃん。……氷雨』
――どくん、と何かが蠢いた。
…氷雨…氷雨…
そうだ…俺は…俺の真実の名は氷雨で…
あのさっきの娘は…ここに毎日通っては話しかけ続けてきた子は…息吹…!
息吹…!
ああそうだ…俺…死ななかったんだ…
だから戻らなきゃ。
息吹…
主さま…!
――ぱきぱき、と音を立てて、掌大の大きさの氷の塊が一気に両手の掌大になった。
愛しくて、命を投げ出しても構わないほどに愛していた女を守るために、早く…早く大きくならなければ。
息吹…待ってろよ。
俺がまた傍に居て、お前を守ってやるから。
お前に必要とされる男として、戻って来るから――
――…なんだようるさいな…誰だよ…。
『今日はね、銀さんからお誕生日に貰ったお花を持って来たの。ね、綺麗でしょ?』
…花…?
花って…なんだよ…
『雪ちゃんが水遣りを手伝ってくれたでしょ?雪ちゃんが居なかったら私…とっくの昔に庭のお花全部枯らしちゃってたかも。だから今もね、枯らさないように頑張ってるの』
…俺が…水遣りを…?
『雪ちゃんの観察日記なんだけど、もうつけはじめて1ケ月だよ?雪ちゃんの馬鹿、早く大きくなってよ』
…なんで俺がお前のために大きくならなきゃいけねんだよ…
つかお前、誰……
『息吹、ここに長居をするな。早く上がれ』
『あ、主さま。今日も雪ちゃんに変化はありませんでした、と…。ちゃんと書いておかなきゃ』
…主…さま…?
『…息吹』
『なあに?』
『…お前にひとつ不満がある』
『あ、夫婦喧嘩の気配!不満ってなあに?』
…なんだよ…こんなとこで痴話げんかすんなよな…
『一体いつになったら俺を“十六夜”と呼ぶ日が来るんだ?いつも主さま主さま…俺の真実の名は主さまじゃない』
『!だ、だって…照れるんだもん!主さまは主さまだもん。そういえば…雪ちゃんも名前を呼んでもらいたがってた。そんなに呼んでもらいたいものなの?』
『…惚れた女に名を呼ばれると震えるほどに嬉しいものだ。雪男もそうだったろう』
『そっか。…主さまのその件は保留!じゃあね、雪ちゃん。……氷雨』
――どくん、と何かが蠢いた。
…氷雨…氷雨…
そうだ…俺は…俺の真実の名は氷雨で…
あのさっきの娘は…ここに毎日通っては話しかけ続けてきた子は…息吹…!
息吹…!
ああそうだ…俺…死ななかったんだ…
だから戻らなきゃ。
息吹…
主さま…!
――ぱきぱき、と音を立てて、掌大の大きさの氷の塊が一気に両手の掌大になった。
愛しくて、命を投げ出しても構わないほどに愛していた女を守るために、早く…早く大きくならなければ。
息吹…待ってろよ。
俺がまた傍に居て、お前を守ってやるから。
お前に必要とされる男として、戻って来るから――
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