主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
若葉が転生した時、すぐにわかると言われた。
銀は朔の百鬼夜行に息子と共に加わり、まだ幼い娘は息吹や息吹の子たちが遊び相手になってくれて打ち解けた。
時々銀はふらっと居なくなり、高千穂へ行って若葉の墓参りに行く。
そうする時はやはり寂しさを感じているのだと主さまたちも知っているので、咎めもしなかったし止めもしなかった。
悪事を働く妖たちを懲らしめながら日々を過ごし、そして数十年が経った時――
子供たちが大きくなってそれぞれ嫁いだり嫁を貰ったりして手元から離れたある日…
「…!来た…」
「銀?どうした?」
「戻って来た…!行って来る!すぐそこに…居る!」
縁側で寛いでいた銀が突然声を上げて屋敷を飛び出して行く。
主さまと息吹は顔を見合わせて銀の跡を追うと、驚く住人たちの間を走り抜けて銀が向かっている幽玄橋の前にたどり着いた。
銀は赤鬼と青鬼が守る幽玄橋の前に立ちつくし、平安町の方をじっと見つめていた。
そこには…
両手を胸にあてて、そんな銀をじっと見つめ返している桜色の着物を着た若い女が立っていた。
「若葉…なのか…?」
「…ぎんちゃん……」
同じ声、同じ姿――
だが決定的に違うのは、転生した若葉と思しき女の尻に可愛らしい白い尻尾と、頭の上に耳が生えていたことだ。
「お前…妖に…白狐に転生して…」
「ずっと神様にお願いしていたことなの。ずっとぎんちゃんと一緒に居られるようにって…」
唇を震わせている銀の背中をそっと押した主さまは、涙で顔がぐしゃぐしゃになっている息吹の肩を抱いて1歩前進した。
泣き崩れてその場に座り込んだ若葉に駆け寄って顎を取って上向かせると、まさしく若葉のままで、反射的に息もできないほど強く抱きしめて、声を震わせた。
「戻って来てくれたんだな…?また俺と…一緒に居てくれるんだな…?」
「うん…ぎんちゃん、傍に居させて。私のこと…待っててくれてた?」
「ああ、ずっと待っていた…!俺も…十六夜も…息吹も…朔も…俺たちの息子と娘もだ…!」
「嬉しい…。ぎんちゃん…私…自分の脚で幽玄橋を渡ってもいい?みんなの仲間にしてもらえる?」
「若葉…!」
息吹がぶつかるようにして若葉を抱きしめると、若葉は忘れもしない息吹の匂いを嗅いで背中に手を回した。
「お姉ちゃん…」
「またそう呼んでくれるんだね…若葉お帰り、ずっと待ってたよ!」
「うん…ちょっと時間がかかっちゃったけど、絶対戻って来ようって決めてたから。主さま…またよろしくお願いします」
「ああ、よく戻って来てくれた。さあ、屋敷に戻ろう」
――若葉は自らの脚で幽玄橋を渡った。
この橋に捨てられていたあの頃とは、違う。
自らの脚で。
自らの意志で。
「さあ、これからどう面白おかしく過ごそうか」
「ぎんちゃんとならいつでも面白おかしく過ごせるよ」
銀と若葉の真っ白な尻尾が絡み合う。
手を繋ぎ合った2人はあの頃と同じく――
笑顔に溢れた生活は、これからも続いていくのだ。
これからも、ずっと――
【完】
銀は朔の百鬼夜行に息子と共に加わり、まだ幼い娘は息吹や息吹の子たちが遊び相手になってくれて打ち解けた。
時々銀はふらっと居なくなり、高千穂へ行って若葉の墓参りに行く。
そうする時はやはり寂しさを感じているのだと主さまたちも知っているので、咎めもしなかったし止めもしなかった。
悪事を働く妖たちを懲らしめながら日々を過ごし、そして数十年が経った時――
子供たちが大きくなってそれぞれ嫁いだり嫁を貰ったりして手元から離れたある日…
「…!来た…」
「銀?どうした?」
「戻って来た…!行って来る!すぐそこに…居る!」
縁側で寛いでいた銀が突然声を上げて屋敷を飛び出して行く。
主さまと息吹は顔を見合わせて銀の跡を追うと、驚く住人たちの間を走り抜けて銀が向かっている幽玄橋の前にたどり着いた。
銀は赤鬼と青鬼が守る幽玄橋の前に立ちつくし、平安町の方をじっと見つめていた。
そこには…
両手を胸にあてて、そんな銀をじっと見つめ返している桜色の着物を着た若い女が立っていた。
「若葉…なのか…?」
「…ぎんちゃん……」
同じ声、同じ姿――
だが決定的に違うのは、転生した若葉と思しき女の尻に可愛らしい白い尻尾と、頭の上に耳が生えていたことだ。
「お前…妖に…白狐に転生して…」
「ずっと神様にお願いしていたことなの。ずっとぎんちゃんと一緒に居られるようにって…」
唇を震わせている銀の背中をそっと押した主さまは、涙で顔がぐしゃぐしゃになっている息吹の肩を抱いて1歩前進した。
泣き崩れてその場に座り込んだ若葉に駆け寄って顎を取って上向かせると、まさしく若葉のままで、反射的に息もできないほど強く抱きしめて、声を震わせた。
「戻って来てくれたんだな…?また俺と…一緒に居てくれるんだな…?」
「うん…ぎんちゃん、傍に居させて。私のこと…待っててくれてた?」
「ああ、ずっと待っていた…!俺も…十六夜も…息吹も…朔も…俺たちの息子と娘もだ…!」
「嬉しい…。ぎんちゃん…私…自分の脚で幽玄橋を渡ってもいい?みんなの仲間にしてもらえる?」
「若葉…!」
息吹がぶつかるようにして若葉を抱きしめると、若葉は忘れもしない息吹の匂いを嗅いで背中に手を回した。
「お姉ちゃん…」
「またそう呼んでくれるんだね…若葉お帰り、ずっと待ってたよ!」
「うん…ちょっと時間がかかっちゃったけど、絶対戻って来ようって決めてたから。主さま…またよろしくお願いします」
「ああ、よく戻って来てくれた。さあ、屋敷に戻ろう」
――若葉は自らの脚で幽玄橋を渡った。
この橋に捨てられていたあの頃とは、違う。
自らの脚で。
自らの意志で。
「さあ、これからどう面白おかしく過ごそうか」
「ぎんちゃんとならいつでも面白おかしく過ごせるよ」
銀と若葉の真っ白な尻尾が絡み合う。
手を繋ぎ合った2人はあの頃と同じく――
笑顔に溢れた生活は、これからも続いていくのだ。
これからも、ずっと――
【完】