主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
晴明の受難 その壱
「晴明しゃま…」

「何だい息吹。これからは父様と呼びなさいと言ったはずだよ」


「はい…」


そこは平安町の晴明邸。

夜中に起きてはぐずってなかなか眠らない幼女を半ば強引に幽玄町から連れ出した晴明は、読んでいた巻物を脇に置いて膝を叩いた。


すると息吹はその膝枕にあやかり、涙目で問う。


「もう雪ちゃんや主しゃまには…会えないの?」


「そうだねえ、そなたが会いたければ会うといい。ただし、食われるかもしれないことは忠告しておこう」


あれから一週間。

息吹は主さまたちを懐かしがり、彼らの話をしたがる。

日中も、寂しさからか側から離れず、独り身に慣れている晴明は内心どうしたものかと思っていた。


「やだ…食べられたくありません…」


「あれらは妖であり、無償で人を養ったりはしないものだ。いつかは恐ろしい目に遭うことになる。その前にそなたを連れ出すことができて幸運だったよ」


「でも…主しゃまたちは優しくて…」


「上辺だけだよ。そなたはここで穏やか暮らしなさい。私はその手助けをしよう」


安心させるために、言葉を重ねる。

重ねる度に、息吹は安心して、眠りに落ちていく。


晴明は、ふうと息を吐いて、また巻物を手に取った。


「さて、どうしたものか」


机の上には大量の文。

差出人は、もちろん幽玄町の主さまたちからだった。
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