主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
晴明の屋敷には、多くの者が出入りする。
皆が皆、身なりが良くて風格があり、何かしらの重要な役割を担っているような感じだ。
そういう人々が出入りする時は決まって式神と屋敷の奥深くで遊んでいる息吹にとっては、最大の関心でもあった。
「あの人たちは、晴明しゃまとお話をしに来ているの?」
「存じません」
「みんなぺこぺこしてて、お庭の人魚さんを見てびっくりしてるし…どこから来てる人たちなの?」
「存じません」
ーー式神は教えてくれない。
簡単な質問には応じてくれるが、晴明が何をしているかについては、全く教えてくれる素振りがなく、ただ遊びに付き合ってくれる。
息吹も晴明の屋敷に来て、庭に女の美しい人魚が居るのを見た時は驚いたが、何せ妖については耐性がついているのですぐに慣れた。
「あ、帰るみたい。晴明しゃまのとこに行こ」
待ってましたと言わんばかりに遊んでいた貝を集めて箱に入れて片付けると、晴明がいつも使っている大部屋に駆け込む。
床には何やら紙が散らかり、水盤がある。
何に使っているのかわからない道具が散乱していて足の踏み場もなく、息吹が片付けようと腰を折ろうとすると、それを晴明が止めた。
「式神が片付けるから、そなたは何もせずとも良い。どうしたんだい、退屈だったかい?」
「晴明しゃまは、お屋敷に来る人たちと何をお話をしてるの?」
「そうだねえ、そなたには難しくて理解しがたいことを話している。それより、次に来る客は、そなたにも関係があるからここに居なさい」
「え、私に?」
息吹の拠り所は晴明しかなく、自分に関係のある来客と言えばーー
「主しゃま!?」
「残念ながら、それは違うな。息吹、よく聞きなさい。いざ…主さまと呼ばれている男は、絶対にここには来ない。私がそう仕掛けをしてある」
「……はい…」
明らかにしょげた息吹に何やら無性に焦りを覚えた晴明は、うなだれた息吹に足早に駆け寄って小さすぎる肩に手を置いた。
「そなたはここでゆるりと過ごせば良いのだ。嗜み、教養、常識ーーそれら全てを私が教えてあげるから、妖のことは忘れるのだ」
「でも…お庭に人魚さんが」
「ああ、あれは縁のある者でね。この屋敷に住む唯一の妖なのだが、あれ以外の妖はここには入れない。いずれ理由は教えてあげよう」
「はい」
屋敷には晴明の結界が張り巡らせてある。
幼い息吹にはもちろんまだ理解できなかったがーー主さまたちが、絶対にここには来ないのだということはわかった。
それはとてもとてもーー切ない気持ちになって、小さな胸がきゅう、と音を立てた。
皆が皆、身なりが良くて風格があり、何かしらの重要な役割を担っているような感じだ。
そういう人々が出入りする時は決まって式神と屋敷の奥深くで遊んでいる息吹にとっては、最大の関心でもあった。
「あの人たちは、晴明しゃまとお話をしに来ているの?」
「存じません」
「みんなぺこぺこしてて、お庭の人魚さんを見てびっくりしてるし…どこから来てる人たちなの?」
「存じません」
ーー式神は教えてくれない。
簡単な質問には応じてくれるが、晴明が何をしているかについては、全く教えてくれる素振りがなく、ただ遊びに付き合ってくれる。
息吹も晴明の屋敷に来て、庭に女の美しい人魚が居るのを見た時は驚いたが、何せ妖については耐性がついているのですぐに慣れた。
「あ、帰るみたい。晴明しゃまのとこに行こ」
待ってましたと言わんばかりに遊んでいた貝を集めて箱に入れて片付けると、晴明がいつも使っている大部屋に駆け込む。
床には何やら紙が散らかり、水盤がある。
何に使っているのかわからない道具が散乱していて足の踏み場もなく、息吹が片付けようと腰を折ろうとすると、それを晴明が止めた。
「式神が片付けるから、そなたは何もせずとも良い。どうしたんだい、退屈だったかい?」
「晴明しゃまは、お屋敷に来る人たちと何をお話をしてるの?」
「そうだねえ、そなたには難しくて理解しがたいことを話している。それより、次に来る客は、そなたにも関係があるからここに居なさい」
「え、私に?」
息吹の拠り所は晴明しかなく、自分に関係のある来客と言えばーー
「主しゃま!?」
「残念ながら、それは違うな。息吹、よく聞きなさい。いざ…主さまと呼ばれている男は、絶対にここには来ない。私がそう仕掛けをしてある」
「……はい…」
明らかにしょげた息吹に何やら無性に焦りを覚えた晴明は、うなだれた息吹に足早に駆け寄って小さすぎる肩に手を置いた。
「そなたはここでゆるりと過ごせば良いのだ。嗜み、教養、常識ーーそれら全てを私が教えてあげるから、妖のことは忘れるのだ」
「でも…お庭に人魚さんが」
「ああ、あれは縁のある者でね。この屋敷に住む唯一の妖なのだが、あれ以外の妖はここには入れない。いずれ理由は教えてあげよう」
「はい」
屋敷には晴明の結界が張り巡らせてある。
幼い息吹にはもちろんまだ理解できなかったがーー主さまたちが、絶対にここには来ないのだということはわかった。
それはとてもとてもーー切ない気持ちになって、小さな胸がきゅう、と音を立てた。