主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
広い庭は、息吹の憂鬱をかなり和らげてくれていた。
散策は楽しいし、池には人魚が居て息吹を見つけると話しかけてくるようになった。
「あんた…晴明の養女になったんだって?」
「え?ようじょってなあに?」
「あーあ、なんにも知らないんだね。あんた…あの男は恐ろしいよ。逆らわず、そして怒らせない方が身のためだね」
「晴明しゃまに怒られたことなんかないもん。優しくて、一緒に居ると安心できるし。人魚さんこそなんでここに居るの?」
「それは…おっと」
それまでにやけながら話していた人魚が急に口を閉じた。
視線を追って振り返った息吹は、開け放たれた納戸の奥でこちらに向かって人差し指と中指を口許にあてている晴明が居た。
「あ、晴明しゃま」
「何か余計なことでも吹き込まれたかな?」
「あたしは何も話してない。変な術はお断りだね」
人魚と晴明がしばし睨み合う。
息吹は不穏な空気を察して、ふたりの間に割り込むようにして立つと、人魚を庇うように両手を広げた。
「ちょっとお話ししてただけ。ねえ晴明しゃま、このお庭にお花を植えたいんだけど…駄目?」
「花?それはいいが…何故花なんだい?」
晴明が口許にあてていた指を離した時、人魚が囁くように安堵の息を吐いた。
息吹は縁側に腰掛けて晴明にもそれを促すと、殺風景な庭を小さな指で差した。
「ここのお庭が好きなの。でも色が足りない気がして…」
「では種を調達するとしよう。植えるのは式神たちにさせて…」
「ううん、自分でします。いいでしょ?ね?」
おねだりするように膝に上がってきた息吹の行動に腰が引けそうになった晴明は、間近で目を輝かせる息吹に苦笑した。
「私は忙しいことが多い。手伝ってやれないかもしれないが」
「大丈夫!自分でやるから!晴明しゃま、ありがとう!」
ーーここで生きていくことを選んだーー
花が育つには時間がかかる。
息吹はこちら側で生きていくことを選んだのだと感じ取った晴明は、確かに殺風景な庭を眺めて息吹に頼んだ。
「ではお願いしようかな」
「はい!」
そう言いながら、晴明の右手の人差し指と中指をそっと掴んでにっこり笑った。
「人魚さんに怖いことしちゃ駄目だよ」
晴明の苦笑と人魚の押し殺した笑い声が、重なった。
散策は楽しいし、池には人魚が居て息吹を見つけると話しかけてくるようになった。
「あんた…晴明の養女になったんだって?」
「え?ようじょってなあに?」
「あーあ、なんにも知らないんだね。あんた…あの男は恐ろしいよ。逆らわず、そして怒らせない方が身のためだね」
「晴明しゃまに怒られたことなんかないもん。優しくて、一緒に居ると安心できるし。人魚さんこそなんでここに居るの?」
「それは…おっと」
それまでにやけながら話していた人魚が急に口を閉じた。
視線を追って振り返った息吹は、開け放たれた納戸の奥でこちらに向かって人差し指と中指を口許にあてている晴明が居た。
「あ、晴明しゃま」
「何か余計なことでも吹き込まれたかな?」
「あたしは何も話してない。変な術はお断りだね」
人魚と晴明がしばし睨み合う。
息吹は不穏な空気を察して、ふたりの間に割り込むようにして立つと、人魚を庇うように両手を広げた。
「ちょっとお話ししてただけ。ねえ晴明しゃま、このお庭にお花を植えたいんだけど…駄目?」
「花?それはいいが…何故花なんだい?」
晴明が口許にあてていた指を離した時、人魚が囁くように安堵の息を吐いた。
息吹は縁側に腰掛けて晴明にもそれを促すと、殺風景な庭を小さな指で差した。
「ここのお庭が好きなの。でも色が足りない気がして…」
「では種を調達するとしよう。植えるのは式神たちにさせて…」
「ううん、自分でします。いいでしょ?ね?」
おねだりするように膝に上がってきた息吹の行動に腰が引けそうになった晴明は、間近で目を輝かせる息吹に苦笑した。
「私は忙しいことが多い。手伝ってやれないかもしれないが」
「大丈夫!自分でやるから!晴明しゃま、ありがとう!」
ーーここで生きていくことを選んだーー
花が育つには時間がかかる。
息吹はこちら側で生きていくことを選んだのだと感じ取った晴明は、確かに殺風景な庭を眺めて息吹に頼んだ。
「ではお願いしようかな」
「はい!」
そう言いながら、晴明の右手の人差し指と中指をそっと掴んでにっこり笑った。
「人魚さんに怖いことしちゃ駄目だよ」
晴明の苦笑と人魚の押し殺した笑い声が、重なった。