主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
一緒に暮らしていると、つくづく晴明の仕草振る舞いは細部にまで繊細だとわかる。
茶の飲み方ひとつでも、上品かつ美しく、自然と見習わなければと思わせるのだ。
晴明の息吹への教育はそうしたところからひっそりと始まっており、器の持ち方や礼儀作法…全てを教えるつもりでいた。
「ねえ晴明しゃま。お庭に植えた種から芽が出たの。ちっちゃくて、可愛いの」
「ああ見たよ。だが愛でて慈しんでやらねば、咲く花も咲かぬ。用心しなさい」
そう言いつつ、息吹の目の前には様々な絵巻物が並べられていた。
童子が読める程度のものだが、驚くべきはーー
「教えずとも全て読めるようだねえ。誰に教わったんだい?」
「雪ちゃんから。主しゃまには内緒で教えてもらってたの」
「ああなるほど」
食うつもりだから、字の読み書きができなくてもいいというわけか。
…それは、心の中に留めておいた。
あまりというか、ほとんど人とつるむことのない晴明だが、息吹にはすでに愛着を持っていた。
賢いし、こちらの意を汲もうとする。
ただ、着物や髪飾りなど何もねだってはこないので、つい仕立て屋を呼んで息吹に似合うものを見繕ったりしてしまう。
夜は…相変わらずひとりが怖いらしい。
出来る限り一緒に寝て、食事を共にして、作法を教えていると、まるで実の娘のように思えてきていた。
「独身貴族の私としたことが、変わったものだ」
「何それ?どういう意味?」
「生涯妻を持たず、子も持たないつもりだったということだよ」
共にひとつ床の中、灯籠の優しく淡い光の中、息吹が目を丸くした。
「晴明しゃまは好きな人居ないの?」
「そうでもないんだけれどねえ…なかなか手強い女子で、振り向いてくれる様子はないな」
「そおなんだ…その人勿体無いことしてるよね。晴明しゃまはかっこよくて素敵なのに」
ーーよもやその意中の人が息吹の育ての親とも言えず、晴明は曖昧に笑って灯籠の火を消した。
「そなたもいずれ嫁に行くんだろうが…さて、私の小舅ぶりに逃げ出すかもしれないな」
「あんまり意地悪しないであげてね。晴明しゃまみたいな素敵な人だったらいいな…」
屈託無く笑って布団を被った息吹にまた笑みを誘われる。
もちろん、晴明の小舅っぷりは想像以上のものだったわけだが、それはまだ先の話ーー
茶の飲み方ひとつでも、上品かつ美しく、自然と見習わなければと思わせるのだ。
晴明の息吹への教育はそうしたところからひっそりと始まっており、器の持ち方や礼儀作法…全てを教えるつもりでいた。
「ねえ晴明しゃま。お庭に植えた種から芽が出たの。ちっちゃくて、可愛いの」
「ああ見たよ。だが愛でて慈しんでやらねば、咲く花も咲かぬ。用心しなさい」
そう言いつつ、息吹の目の前には様々な絵巻物が並べられていた。
童子が読める程度のものだが、驚くべきはーー
「教えずとも全て読めるようだねえ。誰に教わったんだい?」
「雪ちゃんから。主しゃまには内緒で教えてもらってたの」
「ああなるほど」
食うつもりだから、字の読み書きができなくてもいいというわけか。
…それは、心の中に留めておいた。
あまりというか、ほとんど人とつるむことのない晴明だが、息吹にはすでに愛着を持っていた。
賢いし、こちらの意を汲もうとする。
ただ、着物や髪飾りなど何もねだってはこないので、つい仕立て屋を呼んで息吹に似合うものを見繕ったりしてしまう。
夜は…相変わらずひとりが怖いらしい。
出来る限り一緒に寝て、食事を共にして、作法を教えていると、まるで実の娘のように思えてきていた。
「独身貴族の私としたことが、変わったものだ」
「何それ?どういう意味?」
「生涯妻を持たず、子も持たないつもりだったということだよ」
共にひとつ床の中、灯籠の優しく淡い光の中、息吹が目を丸くした。
「晴明しゃまは好きな人居ないの?」
「そうでもないんだけれどねえ…なかなか手強い女子で、振り向いてくれる様子はないな」
「そおなんだ…その人勿体無いことしてるよね。晴明しゃまはかっこよくて素敵なのに」
ーーよもやその意中の人が息吹の育ての親とも言えず、晴明は曖昧に笑って灯籠の火を消した。
「そなたもいずれ嫁に行くんだろうが…さて、私の小舅ぶりに逃げ出すかもしれないな」
「あんまり意地悪しないであげてね。晴明しゃまみたいな素敵な人だったらいいな…」
屈託無く笑って布団を被った息吹にまた笑みを誘われる。
もちろん、晴明の小舅っぷりは想像以上のものだったわけだが、それはまだ先の話ーー