主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
毎朝の日課はまず庭に降りて芽を観察することからだ。
毎日見ていると、毎日少しずつ成長しているのがわかり、楽しい。
「花はいつ咲くのかなあ」
「息吹、少々家を留守にするが…わかるね?」
「はい。お屋敷の外には出ないこと、誰か来ても扉を開けないこと」
「そうだよ、よくないものが入ってこれないようにはしてあるが、扉を開けて招いてしまっては意味がないからね」
烏帽子を被り、正装した晴明は深々とため息をついた。
「行きたくないの?」
「やんごとなき方からの直々の招聘で行かねばならないんだ。どうせつまらぬ話だろうし、すぐに帰ってくるよ」
「行ってらっしゃい!」
よくわからないが、偉い人が晴明を呼んでいるらしいというのはわかった。
手桶を置いて手を振る息吹に手を振り返した晴明が屋敷を出て行く。
残されたのは、息吹と人魚だけ。
人魚と会話をするとあまりいい顔をしない晴明が留守なのをいいことに、息吹は顔だけ出してこちらを見ていた人魚を拱いた。
「美味しいお饅頭があるの。一緒に食べよ」
「あたしと話すと晴明が怒るよ」
「今居ないから大丈夫だよ。ねっ、はいこれ」
式神が居るので後で晴明に報告されるのは目に見えていたが、幼い息吹がそれに気付くはずもなく、人魚は仕方なく半身を池から出すと、饅頭を受け取った。
「本当に晴明の養女になるみたいだね」
「うん、だからお勉強もお作法もしっかりしないといけないの。人魚さんも手伝ってね」
「嫌だよあたしは干渉しない主義なんだ」
そう言いながら饅頭を口に放り込んだ人魚は、実はとても美しい。
濃い緑色の髪はとても長く、腰から下の魚の部分は真っ青な鱗に覆われている。
妖しい笑みで男を魅了し、食うこともあったが、ここに来てからというものーー
「人魚さんと晴明しゃまはお友達じゃないの?」
「違うね、そんな可愛らしい仲じゃない。あいつはあたしをここに閉じ込めてるんだ。そして…」
話の途中、急に人魚が口を閉ざした。
鋭い眼差しで唯一の出入り口である扉に目を遣る人魚に不安を覚えた息吹が、人魚の冷たい手を握る。
「何か来た。あんたは動くんじゃないよ」
「う、うん」
どん、どん。
扉が叩かれる。
何かが、やって来た。
毎日見ていると、毎日少しずつ成長しているのがわかり、楽しい。
「花はいつ咲くのかなあ」
「息吹、少々家を留守にするが…わかるね?」
「はい。お屋敷の外には出ないこと、誰か来ても扉を開けないこと」
「そうだよ、よくないものが入ってこれないようにはしてあるが、扉を開けて招いてしまっては意味がないからね」
烏帽子を被り、正装した晴明は深々とため息をついた。
「行きたくないの?」
「やんごとなき方からの直々の招聘で行かねばならないんだ。どうせつまらぬ話だろうし、すぐに帰ってくるよ」
「行ってらっしゃい!」
よくわからないが、偉い人が晴明を呼んでいるらしいというのはわかった。
手桶を置いて手を振る息吹に手を振り返した晴明が屋敷を出て行く。
残されたのは、息吹と人魚だけ。
人魚と会話をするとあまりいい顔をしない晴明が留守なのをいいことに、息吹は顔だけ出してこちらを見ていた人魚を拱いた。
「美味しいお饅頭があるの。一緒に食べよ」
「あたしと話すと晴明が怒るよ」
「今居ないから大丈夫だよ。ねっ、はいこれ」
式神が居るので後で晴明に報告されるのは目に見えていたが、幼い息吹がそれに気付くはずもなく、人魚は仕方なく半身を池から出すと、饅頭を受け取った。
「本当に晴明の養女になるみたいだね」
「うん、だからお勉強もお作法もしっかりしないといけないの。人魚さんも手伝ってね」
「嫌だよあたしは干渉しない主義なんだ」
そう言いながら饅頭を口に放り込んだ人魚は、実はとても美しい。
濃い緑色の髪はとても長く、腰から下の魚の部分は真っ青な鱗に覆われている。
妖しい笑みで男を魅了し、食うこともあったが、ここに来てからというものーー
「人魚さんと晴明しゃまはお友達じゃないの?」
「違うね、そんな可愛らしい仲じゃない。あいつはあたしをここに閉じ込めてるんだ。そして…」
話の途中、急に人魚が口を閉ざした。
鋭い眼差しで唯一の出入り口である扉に目を遣る人魚に不安を覚えた息吹が、人魚の冷たい手を握る。
「何か来た。あんたは動くんじゃないよ」
「う、うん」
どん、どん。
扉が叩かれる。
何かが、やって来た。