主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
「…やけにお前に懐いているが…何をした?」


翌朝半妖の晴明が何を食べるかわからず、人の食事を用意して一緒に食べてやっていた山姫を見た主さまは、眠たそうな顔をしながらも晴明の隣に腰を下ろした。


「主さまの代わりにあたしが面倒を見てるんですよ、そりゃ主さまよりは懐いてくれますよねえ」


「…あまり気張るな。これが独り立ちするまではここに置く。…それが俺が葛の葉の代わりにできる唯一のことだからな」


「主さまは葛の葉を好いていたんですか?やけにご執心ですけど…あの子は人を選んだんですよ?」


「別にご執心じゃない。気に留めていただけだ」


行儀よく米を頬張っている晴明の頭を撫でた主さまは、晴明のお尻から飛び出ている真っ白でふわふわな尻尾を撫でると、小さな声で呟かれた。


「…助平」


「なに?俺のどこが助平だ」


「主さまは大助平ですよ。一体何人の女を泣かせたと思ってるんですか?そろそろ夫婦になってあたしを安心させて下さいな」


「…うるさい」


何故か小言を言われる羽目になった仏頂面の主さまの顔を見上げた晴明は、主さまと山姫を交互に見つめて首を傾けた。


「夫婦じゃないの?」


「違うよ、冗談でもやめとくれ。あたしの旦那になる男は力も精も強くなくちゃ駄目だ。主さまは力はあるけど…精はどうなんだろうねえ、試してないからわからないねえ」


「お前に心配されずともどちらとも強い。…もう寝る」


何をしに起きてきたのか――

晴明が気がかりで起きたはいいものの、小言を言われてげんなりした主さまがまた部屋へ消えて行くと、晴明は一粒の米も残さずに完食すると、縁側へ行って鬱蒼とした庭を見つめていた。


感傷に浸っているのだと感じた山姫は晴明に声をかけずに朝餉の片づけをしてその場から離れる。

気丈にしてはいるものの、両親をいっぺんに失ったのだから、その心情は計り知れない。


「全く…面倒なものを拾ってきたもんだよ。なんであたしが世話をしなきゃいけなくなったんだろう…」


そう言いつつも何かを育てるのは悪くない、とも思っていた。

晴明は大人しいし利発だし、時々甘えん坊にはなるが手がかからない。

手がかかるならば問題だが…このまま成長を見守ってみようと思った。


…この時はまだ、そう思っていた。
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