主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
「ねえ、なんで母様のことばかり見てるの?」


先代の末娘がその男に最初に問いかけたのは、こんな疑問からだった。


「はあ?見てないし。お前なに言ってんだ」


「見てるよ。でも母様は父様のものなんだからね」


「そんなの分かってるし。ほらもういいから昼寝しろ。俺が主さまに怒られるだろ」


「兄様はそんなことで怒らないもん」


「うっるさいなあ、いいから寝ろって」


くしゃ、と髪をかき混ぜてきたのは、末娘の朧(おぼろ)の世話役である雪男だ。


齢十足らずにしてかなり整った顔立ちをしているこの末娘は、母をよく見つめている雪男に疑問を持っていた。


現在の当主である朔(さく)の代になり、兄弟の中でも一際活発な朧は、父たちと住んでいる屋敷を抜け出して、百鬼たちと共に暮らしている長兄の朔の元へよく遊びに行く。


朔はとても可愛がってくれるし、百鬼たちも遊んでくれるので、朧にとってはこちらの方が居心地が良かったりしていたのだが・・・


雪男の存在が最近朧をざわざわさせていた。


「昼寝するから教えて。母様のことが好きなの?」


「まあな、主さ・・・じゃなかった。先代の奥方だしな。ちっさい時から知ってたんだ。お前によく似てたな」


小春日和で気持ち良い風が吹き、縁側で寝転んだ朧に薄い掛け布団を掛けてやった雪男が一瞬遠い目をして白い歯を見せた。


「お前みたいなじゃじゃ馬だったよ」


「母様はきれいで可愛いけど、私の方が可愛いでしょ?」


「ははっ、そりゃ自意識過剰ってもんだ。息吹は・・・」


誰よりも何よりも美しい。


そう言った雪男の横顔は朧の小さな胸をかき鳴らし、はじめての嫉妬を覚えさせた。
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