主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
晴明は紙遊びが得意だった。

人型に切り取った白い紙に息を吹きかけて何かを唱えると、それが獣だったり人だったり変化する。

ただし力が定まっていないので失敗することも多かったが、百鬼の中には晴明をいずれ仲間に加えようという声が多く上がっていた。


「晴明!晴明?どこに居るんだい?あたしの用事を手伝っておくれ」


屋敷中を見て回っても晴明の姿はなく、山姫が息をついた時…主さまがものすごい形相で部屋から出て来た。


「主さま?まだ朝ですよ?」


「こいつを俺の部屋に入れたのはお前か!?」


主さまの手には首根っこを掴まれている晴明が。

まだこの屋敷に来て1ケ月も経っていないのに主さまを怒らせてしまうことは死を意味する。

慌てた山姫が何か弁明をしようと口を開きかけた時――晴明だった“もの”が人型に切られた紙に変わり、床にひらひらと落ちた。

主さまと山姫は顔を見合わせると、庭の茂みからひょっこり顔を出してこちらの様子を窺っている晴明を見つけて噴き出した。


「こら晴明、あんた主さまに悪戯したのかい?ふふふっ、やるねえ。主さま、晴明本人じゃないんですから許してやって下さいよ」


「…お前は知らないだろうが、もう何度目だと思っているんだ?ここ数日ずっと俺に何かしら仕掛けてくる。落ち着いて眠れないだろうが!」


寝ることが大好きな主さまの眠りを妨げて遊んでいる晴明は肝っ玉が据わっている。

最近は1人で寝ることにも慣れて甘えん坊はなりを潜めていたが、今も主さまと自分との間を行き来しては百鬼に力の使い方を教わり、日々成長していた。


「晴明こっちにおいで。あんたにはしちゃいけないことといいことの区別をこれからしっかり教えるからね」


「山姫には悪戯してもいい?」


「あたしに?してもいいけどあたしを怒らせると美味しいご飯が食べれなくなるからね。それでもいいんならやってみな」


それですっかり大人しくなってしまった晴明にほくそ笑むと、まだ晴明のやり込め方を全く知らない主さまは晴明の額を人差し指で突くと部屋に消えて行った。


「あそこには入っちゃ駄目だって言ったろ?あんたはめきめき力をつけてるし一目置かれてるから主さまは本気で怒らせてここから追い出されないように気を付けな」


「わかった。これからは怒られないように悪戯をする」


…何もわかってはいなかった。
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