主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
「半端ねえー・・・」


すぐすやすや寝てしまった朧の首元まで掛け布団をかけてやり、内心冷や汗たらたらな雪男は朧の髪を撫でながらぼやいた。


「俺なんか好きになるんじゃないぞ。そんなことになったら色んな奴から命狙われちまう」


まず先代。

次は妹溺愛の朔。

そして祖父の安倍晴明・・・


考えただけでぞっとした雪男は、世話役の自分が朧に手を出す想像などできもしない。

今まで何人もの朧の兄弟たちを教育し、見送ってきたのだ。


朧だけ特別扱いするわけにもいかなかったが、なにぶん息吹そっくりなため、自分でも気付かずに甘やかしてしまっている可能性もある。

朧が自分を好きにならず無事に嫁に行ってもらうことだけを考えればいいのだ。


「くそ・・・なんでこんな小難しいこと考えなきゃいけねんだよ」


規則正しい寝息に微睡んでしまう。

一度目を閉じてしまうと睡魔は一気にやって来て・・・


朝方、朔に結構な力で蹴られて飛び起きた。


「何してる?」


「お、おお主さま・・・いや、うたた寝を・・・」


「朧は?」


「へ?ここに・・・あれ?」


笑顔だが圧のすごい朔に動揺しつつ横を見ると、朧が居ない。

焦って捜しに行こうとした時、朧がお玉を振りかざしながら襖からひょっこり顔を出した。


「ご飯ですよ。冷たいお味噌汁ですよ」


「お、おう、ありがと」


「・・・夫婦みたいじゃないか。なあ、氷雨」


真の名を呼ばれて背筋が伸びきった雪男、冷や汗。


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