主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
夕方になって主さまが部屋から出て来ると、晴明は必ず主さまの隣に居た。


…はっきり言うと晴明に監視されているような気分になっていた主さまは、何やかんや小言を言い付けて傍から離れさせようとしたのだが…この童子、有能どころではない。


「すでに小さな付喪神を使役し、式神をも操っているみたいですよ。主さまが晴明に言い付けた用事は全部晴明の式がやってます。本当にあんたはすごいねえ」


煙管を噛む主さまを隣でじっと見上げている晴明の視線に耐えられなくなった主さまだったが、山姫が話しかけてくると晴明の関心がそちらへ移動したので安心して肩で息をついた。


「無口だが有能ではある。餓鬼のうちから術が使えるのであれば、成人すれば百鬼に迎えてやってもいい。どうだ晴明。百鬼に入りたいか?」


主さまが問うと、晴明は曖昧に首を傾けた。

どうしようか迷っている風で、肌身離さず持っている人型に切り取った紙で手遊びをしながらもまた山姫の顔を見上げていた。


「なんだい?百鬼に入りたくないのかい?」


「山姫は百鬼夜行に出ないの?」


「あたしは留守を任されてるから行けないんだ。一応百鬼ではあるけどここを守るのがあたしの仕事で、治安を守るのは主さまたちの仕事。あんたも早く主さまの力になってやんな」


「…僕もここに残って山姫の手伝いをする」


「ほう、お前…山姫に懸想しているのか?」


冗談交じりに問うたのだが、晴明の頬がほんのり赤くなったのを見た主さまは珍しく笑い声を上げて晴明の髪をくしゃくしゃにかき交ぜた。

そして山姫もまたからから笑うと、晴明の肩を抱いて揺らしながら顔を覗き込んだ。


「じゃあ、あんたとはもう一緒に風呂は入れないねえ。あんたがいい男に育ったら口説いておくれよ」


「うん」


「本気か?お前は度胸がある。だが俺の部屋には入るな。山姫の件は成人してもなお惚れていたならば俺が協力してやらなくはないぞ」


「うん」


また素直にこっくりと頷いた晴明にきゅんとした主さまと山姫は代わる代わる晴明の脇をくすぐったり髪をかき交ぜたりして遊んだ後、主さまが腰を上げた。


「お前が百鬼に入れば葛の葉の仇討ちに力を貸してやる。明日からは俺が力の使い方を教える。ただし夕方から百鬼夜行までの間にだ。いいな?」


「はい」


正座をして頭を下げた晴明の頭をまた撫でた主さまは瞳を細めて空を駆け上がった。

晴明は、一刻も早く立派な男になろうと決めていた。
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