主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
半妖の成長は早い。

一緒に暮らしているとあまり気付かなかったが、晴明の背はぐんぐん伸び、顔つきはどんどん男らしくなり、山姫を驚かせる。


「この前まではまだ童子だったのにねえ。まるで知らない男になっちまったね」


「そうか?最近平安町へ陰陽術の指南を受けに行っているからかもしれぬ」


口調が変わったのは、晴明に陰陽師の素質があると見込んだ男から平安町で本格的に術の指南を受けに行ってからだ。

横顔はもう一人前の男で、日々を共に暮らしてきた山姫が感慨深く息をつくと、まだ主さまが眠っているのを見計らった晴明は、手を伸ばして山姫の頬に触れた。


「な、なんだい?勝手に触らないどくれ」


「そなたよりも背が高くなった。恐らくそなたよりも力も強くなった。山姫…私は成人したぞ」


「そうだねえ、じゃあ百鬼に加わるかい?そういえば主さまが最近そのことをよく口にしてたよ。主さまが起きたら聴いてみな」


素っ気なく返すと、晴明はなお山姫の頬を指でなぞりながら横顔を見つめる。

その視線は最近度々山姫を戸惑わせていた。

晴明が幼い頃に惚れた惚れないでからかったことはあるが、もしかして今も自分のことを好いているのかと思うと、なんとなく恐くて瞳が合わせられないでいる。


「百鬼に加われば…そなたとの距離が縮まると思うか?」


「え?誰と誰のがだい?ちょ…そろそろ手を離しな。精根吸い尽くされたくなければ金輪際勝手にあたしに触るんじゃないよ」


「ふむ、それを試してみるのも面白い。私と試してみぬか」


「はっ?あんた…それ意味わかって言ってるのかい?あんたを殺しちまったら主さまががっかりするだろ、冗談はやめとくれ」


牽制しても晴明は手を離さない。

そればかりか顔を近付けてきたので、山姫は手を振り上げて晴明の頬を叩こうとしてその腕をいとも簡単に掴まれた。


「怒った顔も美しい。そなたは私が童子だった頃からちっとも変らぬ。私の…憧れの女だ」


「ふ、ふん、おだてたって何もあげないからね。ほら主さまが起きてきたよ、挨拶に行きな」


顔も見ずぶっきらぼうにそう返すと、山姫の顔をしばらく見つめた晴明は、言われた通り部屋から出て来た主さまの元へと行った。


「あの青二才…あたしをからかうなんて百年は早いってんだよ。ったく…今日から部屋に結界を張って寝ようかねえ」


山姫が晴明を意識した瞬間だった。
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