主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
山姫が平安町に行くことはほとんどない。
百鬼を束ねるのは主さまだが…百鬼の世話をするのは山姫だ。
日々彼らの世話に追われているし、特別平安町に興味もない。
「確か晴明の屋敷はこの辺…」
寝ているとは言え昼間は主さまが居るので安心して屋敷を出た山姫は、平安町の晴明が暮らしている屋敷の前に立っていた。
扉には五芒星の印が刻まれてあり、晴明が招かない限りは中に入れない構造になっているのでどうしようかと考えあぐねていると、観音扉が勝手に開いた。
恐る恐る中へと入った山姫は、庭の池で優雅に泳いでいる人魚を横目に晴明の姿を捜す。
勝手に屋敷の中へ入るのは憚られたのでまた立ち尽くしていると、静かな声が背中を叩いた。
「何をしに来た?」
「せ、晴明!いきなり背後に立つんじゃないよ驚くだろ!」
「だから何をしに来たのだと聴いている。私が女を連れ込んでいたら面倒なことになっていたぞ」
髪を無造作に1本に括り、白い浴衣を着た晴明が肩を竦めると、山姫は人に紛れて平安町で買った食材の入った籠を晴明に見せた。
「どうせろくなもんでも食べてないだろうと思って買って来たんだ。中に上がらせてもらうよ」
「それは困る。私を案じてここに来たのか?取り越し苦労だったな、私はここでのんびり暮らしている」
少しつっけんどんに返されてむっとした山姫が勝手に中に上がりこむと、案の定台所は使われている形跡がない。
すぐにてきぱきと準備を開始すると、晴明が壁に寄りかかりながら腕を組んでその様子を見つめていた。
「十六夜の傍に居なくてもいいのか?」
「どうせ主さまは昼間は寝てるんだ。それよりあんた、やっぱりろくなもん食べてないね?なんだいその痩せた身体は!式神でも使って料理させな!」
「食べ物が喉を通らぬのだ。これはどうしたもの、か…」
――突然晴明の身体が傾ぐと、片膝をついて倒れこみそうになり、山姫が慌てて身体を支えた。
「あんた…熱があるよ!ったく…床を用意するから縁側で横になってな!」
「迷惑をかける」
いつもならひねくれた態度をとる晴明だったが、この時ばかりは気が弱っているらしく、おとなしく縁側へ歩いて行くのを見た山姫は、晴明の部屋に勝手に入ると床を用意してため息をついた。
「ったく…いつまで経っても餓鬼だね」
だが、安心していた。
百鬼を束ねるのは主さまだが…百鬼の世話をするのは山姫だ。
日々彼らの世話に追われているし、特別平安町に興味もない。
「確か晴明の屋敷はこの辺…」
寝ているとは言え昼間は主さまが居るので安心して屋敷を出た山姫は、平安町の晴明が暮らしている屋敷の前に立っていた。
扉には五芒星の印が刻まれてあり、晴明が招かない限りは中に入れない構造になっているのでどうしようかと考えあぐねていると、観音扉が勝手に開いた。
恐る恐る中へと入った山姫は、庭の池で優雅に泳いでいる人魚を横目に晴明の姿を捜す。
勝手に屋敷の中へ入るのは憚られたのでまた立ち尽くしていると、静かな声が背中を叩いた。
「何をしに来た?」
「せ、晴明!いきなり背後に立つんじゃないよ驚くだろ!」
「だから何をしに来たのだと聴いている。私が女を連れ込んでいたら面倒なことになっていたぞ」
髪を無造作に1本に括り、白い浴衣を着た晴明が肩を竦めると、山姫は人に紛れて平安町で買った食材の入った籠を晴明に見せた。
「どうせろくなもんでも食べてないだろうと思って買って来たんだ。中に上がらせてもらうよ」
「それは困る。私を案じてここに来たのか?取り越し苦労だったな、私はここでのんびり暮らしている」
少しつっけんどんに返されてむっとした山姫が勝手に中に上がりこむと、案の定台所は使われている形跡がない。
すぐにてきぱきと準備を開始すると、晴明が壁に寄りかかりながら腕を組んでその様子を見つめていた。
「十六夜の傍に居なくてもいいのか?」
「どうせ主さまは昼間は寝てるんだ。それよりあんた、やっぱりろくなもん食べてないね?なんだいその痩せた身体は!式神でも使って料理させな!」
「食べ物が喉を通らぬのだ。これはどうしたもの、か…」
――突然晴明の身体が傾ぐと、片膝をついて倒れこみそうになり、山姫が慌てて身体を支えた。
「あんた…熱があるよ!ったく…床を用意するから縁側で横になってな!」
「迷惑をかける」
いつもならひねくれた態度をとる晴明だったが、この時ばかりは気が弱っているらしく、おとなしく縁側へ歩いて行くのを見た山姫は、晴明の部屋に勝手に入ると床を用意してため息をついた。
「ったく…いつまで経っても餓鬼だね」
だが、安心していた。