主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
卵粥を作った山姫が晴明の元に戻ると、先ほどよりも熱があったのか――その顔は少し赤くなっていた。


「卵粥を作ってきたよ。これなら喉を通るだろ」


「食べさせてくれ」


「え!?い、いやだねお断りだよ!起きて自分で食べな!」


だが晴明は咳き込み、背を向けてしまう。

こんなにも弱った晴明を見たことのない山姫はまた焦りながらも、晴明の背中に手を入れて身体を起こしてやった。


「…あんたが童子だった頃を思い出すよ。あんたは身体が弱くて時々こうして寝込んだものだよ」


「…だから童子の頃の話ばかりするなと言っている。…ああ、良い匂いだ」


「口を開けな。熱いから気を付けるんだよ」


「ふぅふぅしてくれ」


「はっ!?…今回だけだからね!あんたはもう立派な男なんだから、あたしに手をかけさせるんじゃないよ」


仕方なく匙を口元に寄せて粥の熱を冷ました後晴明の口元に持って行くと、晴明がぱくりと食いついた。


「ああ、美味だ。久々にまともなものを食した。さ、もっと」


――山姫は何度も粥の熱を冷ましては晴明の口元に…という作業を繰り返し、繰り返していくうちに晴明の顔色が少しずつ良くなっていることに安堵を覚えた。

そうしながらも、こんなに間近でじっくりと晴明の顔を見たのも久々のような気がしてつい見つめてしまうと、晴明が瞳だけを上げて瞳が合った。


「なんだ?私の顔に何かついているか?」


「ふん、別に。これを食べたら横になりな。後は式神に…」


「そなたにここに居てほしい。蜜柑を剥いてくれ」


…童子に戻ったかのような晴明の口ぶりについ噴き出した山姫は、自然に晴明の額を撫でて正座していた脚を崩した。

せめて晴明が眠るまでは傍に居てやろうと思ったが…卵粥を完食した後も晴明が眠る気配はない。


「ちょっと…早く寝なよ、でないと幽玄町に戻れないだろ」


「戻らなくともいい。そなたとて十六夜の世話ばかりで疲れているだろう?ここでのんびりするといい」


「そうだねえ、主さまは手がかかるから…」


その山姫の言葉は晴明をぴりっとさせたが、山姫はそれに気づかずに微笑を浮かべていた。

主さまのことばかり気にする山姫の手をきゅっと握った晴明は、熱のせいか本音なのか…濡れた瞳で山姫を見上げた。


「ここに居てほしい」


繰り返し、うとうとすると眠りに落ちた。
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