主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
夕暮れになって百鬼夜行の召集がかかると、銀がようやく主さまの屋敷に姿を現した。
「若葉、迎えに来たぞ。とはいっても俺はこれから百鬼夜行だから家で大人しくしてるんだ。わかったな?」
「うん。ぎんちゃん、抱っこして」
真っ白な耳と真っ白な尻尾――真っ白な髪に濃紺の瞳の麗しき白狐は、息吹と一緒に貝合わせをしていた若葉を呼び寄せた。
声をかけるとぱっと顔を上げて駆けて来た若葉を抱っこしてあやしていると、息吹はつらそうに息を吐きながら立ち上がり、銀に風呂敷を押し付けた。
「銀さんこれ、よかったらもらって」
「ん?これはなんだ?」
「私が小さかった頃に着てたお着物とかだよ。若葉に着せてあげてね。銀さんそういうの気付いてなさそうだし、若葉だってお洒落したい年頃になってくるんだから」
「そうか。だが女が生まれたらどうする?我が子に着せてやれ。若葉にはこの朱色の着物が…」
「駄目!とにかくもらって!ねえ主さまからも何か言って。お願い」
「…銀、こっちに来い」
主さまの仏頂面に嫌な予感がした銀が顔をしかめると、息吹は銀の腕から若葉をさらって座らせて髪を櫛で梳いてやった。
…若葉は銀に夢中だ。
まるで幼い頃の自分を見ているようで微笑ましくもあるし、痛ましくもある。
若葉は…人間なのだから。
「なんだ?俺は忙しいんだ」
「女遊びに忙しいんだろう?若葉は四六時中ここに居るじゃないか。ちゃんと食わせてやっているのか?あの着物だって薄汚れていたぞ。息吹が…息吹も俺も心配している。お前がこれ以上若葉を育てるつもりがないのならば、うちで引き取ってもいい」
「はは、面白い。お前が若葉を引き取るのか?俺とて6年間ちゃんと若葉をここまで大きくしてきたんだ。まだまだ乳臭い餓鬼だが、成人すれば幽玄町に住む人間の男と夫婦にさせて幸せになってもらいたい。心配するな。ちゃんと仲良くやっている」
それでも眉を潜めている主さまの肩をぽんぽんと叩いた銀が立ち上がると、息吹から風呂敷を受け取ったついでに息吹の首筋をくんくんと嗅いだ。
「銀!何をする、やめろ!」
「おお、いい匂いになってきた。女の匂いと、母の匂いだ。実家で出産するらしいが…十六夜は駄々をこねなかったか?」
「うん、大丈夫。それよりも銀さん、銀さんが居ない間は若葉はうちで預かるから。ね、お願い。そうさせて」
銀はしばらく考え込んだ後、ふわふわの尻尾で息吹の手をくすぐりながら首を振った。
「駄目だ。俺たちは俺たちなりの暮らしがある。だが心配してくれてありがたい。万が一の時は頼らせてもらう」
そう言って若葉を抱っこし直した銀は、主さまの屋敷から徒歩5分程の竹林の中にある小さな家に帰った。
「若葉、迎えに来たぞ。とはいっても俺はこれから百鬼夜行だから家で大人しくしてるんだ。わかったな?」
「うん。ぎんちゃん、抱っこして」
真っ白な耳と真っ白な尻尾――真っ白な髪に濃紺の瞳の麗しき白狐は、息吹と一緒に貝合わせをしていた若葉を呼び寄せた。
声をかけるとぱっと顔を上げて駆けて来た若葉を抱っこしてあやしていると、息吹はつらそうに息を吐きながら立ち上がり、銀に風呂敷を押し付けた。
「銀さんこれ、よかったらもらって」
「ん?これはなんだ?」
「私が小さかった頃に着てたお着物とかだよ。若葉に着せてあげてね。銀さんそういうの気付いてなさそうだし、若葉だってお洒落したい年頃になってくるんだから」
「そうか。だが女が生まれたらどうする?我が子に着せてやれ。若葉にはこの朱色の着物が…」
「駄目!とにかくもらって!ねえ主さまからも何か言って。お願い」
「…銀、こっちに来い」
主さまの仏頂面に嫌な予感がした銀が顔をしかめると、息吹は銀の腕から若葉をさらって座らせて髪を櫛で梳いてやった。
…若葉は銀に夢中だ。
まるで幼い頃の自分を見ているようで微笑ましくもあるし、痛ましくもある。
若葉は…人間なのだから。
「なんだ?俺は忙しいんだ」
「女遊びに忙しいんだろう?若葉は四六時中ここに居るじゃないか。ちゃんと食わせてやっているのか?あの着物だって薄汚れていたぞ。息吹が…息吹も俺も心配している。お前がこれ以上若葉を育てるつもりがないのならば、うちで引き取ってもいい」
「はは、面白い。お前が若葉を引き取るのか?俺とて6年間ちゃんと若葉をここまで大きくしてきたんだ。まだまだ乳臭い餓鬼だが、成人すれば幽玄町に住む人間の男と夫婦にさせて幸せになってもらいたい。心配するな。ちゃんと仲良くやっている」
それでも眉を潜めている主さまの肩をぽんぽんと叩いた銀が立ち上がると、息吹から風呂敷を受け取ったついでに息吹の首筋をくんくんと嗅いだ。
「銀!何をする、やめろ!」
「おお、いい匂いになってきた。女の匂いと、母の匂いだ。実家で出産するらしいが…十六夜は駄々をこねなかったか?」
「うん、大丈夫。それよりも銀さん、銀さんが居ない間は若葉はうちで預かるから。ね、お願い。そうさせて」
銀はしばらく考え込んだ後、ふわふわの尻尾で息吹の手をくすぐりながら首を振った。
「駄目だ。俺たちは俺たちなりの暮らしがある。だが心配してくれてありがたい。万が一の時は頼らせてもらう」
そう言って若葉を抱っこし直した銀は、主さまの屋敷から徒歩5分程の竹林の中にある小さな家に帰った。