主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
「ぎんちゃん、ご飯食べる時間ある?ぎんちゃんと一緒に食べたいな」
「ああ、じゃあ一緒に食おう。しかし息吹の腹は大きいな、今にも生まれてきそうだった」
台所と風呂場と居間しかない小さな家で2人暮らし――
床はひとつで、銀が百鬼夜行に出ている間は若葉がその床で寝て、夜明け前に銀が一旦家に戻って若葉の寝顔を見た後…居なくなる。
若葉はその間いつも主さまの屋敷へ行っては“お姉ちゃん”と慕う息吹と遊んでもらい、時々一緒に主さまをからかったりする。
百鬼たちからはしきりに“美味そうだ”と言われるが、主さまの命令があるのかみんな口ではそう言うが、怖い思いをしたことはない。
「お前また料理が美味くなったな。俺は別に食わなくてもいいんだが、一緒に食ってやろう」
「うん。ぎんちゃん…明日もまたここに知らない女の人が来るの?私はお出かけしてた方がいいんでしょ?」
「ん?いや、別に居てもいいが…息吹たちと一緒に居た方が楽しいぞ」
まだ6歳という年齢にも関わらず、息吹にきっちり料理を仕込まれている若葉はてきぱきと準備をして小さなちゃぶ台に料理を並べた。
銀が妖怪で、自分が人間であることはもちろん知っているし…生い立ちも知っているけれど、いつか息吹に言われたことがあった。
『私は幽玄橋に捨てられていたの。それがとても悲しくてつらかったけど、主さまや母様や雪ちゃんや百鬼たちが居たから、悲しい気持ちを忘れることができた。だから若葉にもここでみんなと暮らして幸せになってほしい』
――若葉は息吹の言葉を思い返しながらも、あまりちゃんと笑うことのできない自分自身を好きになれずにいた。
銀はしょっちゅう家に女を連れ込むし、その間に家に居てはいけないことも知っている。
けれど時々銀が添い寝をしてくれる。
育て親の銀に優しくされて笑いかけてもらうととても嬉しいし楽しい気分にもなる。
…別に女を連れ込んだからといって“出て行け”とは言われたことはないが、自分以外の女と仲良くしている姿を見るのはなんとなくいやだったので、そういう時は主さまの屋敷まで駆けて行くのが日課だ。
「そういえば息吹から着物を貰ったぞ。俺はこれを食ったら百鬼夜行に出るから、明日着せてやろう。待っていられるな?」
「自分で着れるからいい。ぎんちゃん行ってらっしゃい。いい子にしてるから、ちゃんと帰って来てね」
童子にも関わらずやけにさばさばしている若葉の性格を銀はやや気にしていたが、腰を上げて若葉の頭を撫でた。
「じゃあ行って来る。ちゃんと帰って来るから心配するな」
去り際、若葉が銀の尻尾をきゅっと握った。
銀が居なくなる時必ず行われる日課だった。
「ああ、じゃあ一緒に食おう。しかし息吹の腹は大きいな、今にも生まれてきそうだった」
台所と風呂場と居間しかない小さな家で2人暮らし――
床はひとつで、銀が百鬼夜行に出ている間は若葉がその床で寝て、夜明け前に銀が一旦家に戻って若葉の寝顔を見た後…居なくなる。
若葉はその間いつも主さまの屋敷へ行っては“お姉ちゃん”と慕う息吹と遊んでもらい、時々一緒に主さまをからかったりする。
百鬼たちからはしきりに“美味そうだ”と言われるが、主さまの命令があるのかみんな口ではそう言うが、怖い思いをしたことはない。
「お前また料理が美味くなったな。俺は別に食わなくてもいいんだが、一緒に食ってやろう」
「うん。ぎんちゃん…明日もまたここに知らない女の人が来るの?私はお出かけしてた方がいいんでしょ?」
「ん?いや、別に居てもいいが…息吹たちと一緒に居た方が楽しいぞ」
まだ6歳という年齢にも関わらず、息吹にきっちり料理を仕込まれている若葉はてきぱきと準備をして小さなちゃぶ台に料理を並べた。
銀が妖怪で、自分が人間であることはもちろん知っているし…生い立ちも知っているけれど、いつか息吹に言われたことがあった。
『私は幽玄橋に捨てられていたの。それがとても悲しくてつらかったけど、主さまや母様や雪ちゃんや百鬼たちが居たから、悲しい気持ちを忘れることができた。だから若葉にもここでみんなと暮らして幸せになってほしい』
――若葉は息吹の言葉を思い返しながらも、あまりちゃんと笑うことのできない自分自身を好きになれずにいた。
銀はしょっちゅう家に女を連れ込むし、その間に家に居てはいけないことも知っている。
けれど時々銀が添い寝をしてくれる。
育て親の銀に優しくされて笑いかけてもらうととても嬉しいし楽しい気分にもなる。
…別に女を連れ込んだからといって“出て行け”とは言われたことはないが、自分以外の女と仲良くしている姿を見るのはなんとなくいやだったので、そういう時は主さまの屋敷まで駆けて行くのが日課だ。
「そういえば息吹から着物を貰ったぞ。俺はこれを食ったら百鬼夜行に出るから、明日着せてやろう。待っていられるな?」
「自分で着れるからいい。ぎんちゃん行ってらっしゃい。いい子にしてるから、ちゃんと帰って来てね」
童子にも関わらずやけにさばさばしている若葉の性格を銀はやや気にしていたが、腰を上げて若葉の頭を撫でた。
「じゃあ行って来る。ちゃんと帰って来るから心配するな」
去り際、若葉が銀の尻尾をきゅっと握った。
銀が居なくなる時必ず行われる日課だった。