主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
銀が若葉について相談しに行った先は、平安町の晴明の屋敷だった。
幼かった息吹を男手1本で育て上げた晴明だからこそきっと含蓄のある言葉をもらえるにちがいないと考えたのだが…
当の晴明は茶を飲みながらけろりと言ってのけた。
「子育てとは苦労の連続だ。息吹はほとんど手がかからなかったが、病には気を付けていた。…どうした?何を悩んでいる?」
「強いて言うならば、若葉が童子らしくないという点だな。あまり笑わないし、怒ったこともないし、喧嘩をしたこともない。いつも送り出してくれるんだが…泣く姿も見たことがない。…若葉は病なのか?」
晴明は眉を上げて真剣な表情をしている銀を見つめた後、笑い始めた。
銀の性格を熟知した上でもそっと身体を近づけて密着すると、扇子で銀の顎を持ち上げる。
「そなたが女遊びばかりしているからだろう。そなたがわざと若葉と2人きりにならぬようにしているからこそ、独りでいることが当然のように感じている可能性もある。それを望んでいたのではないのか?」
「まあ…そうなんだが。このままでは息吹に若葉を奪われてしまいそうな気がする。俺たちには今の生活が当たり前なんだ。あと10年もすれば…」
「あと10年も表情の動かない若葉を傍に置くつもりか?そなたはそれをどうとも思わぬのか?童子らしい姿を見たければ今の環境を変える必要があるぞ」
「いや、だがしかし…」
銀としてはここまで若葉を育て上げたという自負があり、少なくとも一緒に居る間は仲良くしている自信もあるので、若葉を手放すつもりなど毛頭ない。
だが晴明の言うように、このままずっと人形のような若葉を見続けるのもきっと苦痛に感じることだろう。
「…何がいけないんだ。俺はただ…人らしい生活をと…」
「頭の上に耳があったり尻尾が生えていたりするそなたと人らしい生活を送れるわけがなかろう。もしそう望むならば、私のように若葉を幽玄町から連れ出すことだ。なんなら私が預かってもいいが」
「十六夜にもそう言われた。だが若葉を手放すつもりはない。俺と若葉は今のままで幸せなんだ」
「では何故ここに来た?私から見ても若葉は童子らしくない。だが息吹はここで朗らかに明るく育ったぞ。これ以上悩みたくなければ早急に手放すことだ。私も十六夜も相談に乗ってやる」
――結局何を聴きに晴明の屋敷を訪れたのかわからなくなった銀は、女の元に行かずにそのまま竹林の中にある家に戻った。
「ぎんちゃん、お帰りなさい」
行儀よく正座をして握り飯を食べていた若葉がにこっと笑ったので、ほっとした銀は隣に腰掛けて若葉の頭を撫でた。
幼かった息吹を男手1本で育て上げた晴明だからこそきっと含蓄のある言葉をもらえるにちがいないと考えたのだが…
当の晴明は茶を飲みながらけろりと言ってのけた。
「子育てとは苦労の連続だ。息吹はほとんど手がかからなかったが、病には気を付けていた。…どうした?何を悩んでいる?」
「強いて言うならば、若葉が童子らしくないという点だな。あまり笑わないし、怒ったこともないし、喧嘩をしたこともない。いつも送り出してくれるんだが…泣く姿も見たことがない。…若葉は病なのか?」
晴明は眉を上げて真剣な表情をしている銀を見つめた後、笑い始めた。
銀の性格を熟知した上でもそっと身体を近づけて密着すると、扇子で銀の顎を持ち上げる。
「そなたが女遊びばかりしているからだろう。そなたがわざと若葉と2人きりにならぬようにしているからこそ、独りでいることが当然のように感じている可能性もある。それを望んでいたのではないのか?」
「まあ…そうなんだが。このままでは息吹に若葉を奪われてしまいそうな気がする。俺たちには今の生活が当たり前なんだ。あと10年もすれば…」
「あと10年も表情の動かない若葉を傍に置くつもりか?そなたはそれをどうとも思わぬのか?童子らしい姿を見たければ今の環境を変える必要があるぞ」
「いや、だがしかし…」
銀としてはここまで若葉を育て上げたという自負があり、少なくとも一緒に居る間は仲良くしている自信もあるので、若葉を手放すつもりなど毛頭ない。
だが晴明の言うように、このままずっと人形のような若葉を見続けるのもきっと苦痛に感じることだろう。
「…何がいけないんだ。俺はただ…人らしい生活をと…」
「頭の上に耳があったり尻尾が生えていたりするそなたと人らしい生活を送れるわけがなかろう。もしそう望むならば、私のように若葉を幽玄町から連れ出すことだ。なんなら私が預かってもいいが」
「十六夜にもそう言われた。だが若葉を手放すつもりはない。俺と若葉は今のままで幸せなんだ」
「では何故ここに来た?私から見ても若葉は童子らしくない。だが息吹はここで朗らかに明るく育ったぞ。これ以上悩みたくなければ早急に手放すことだ。私も十六夜も相談に乗ってやる」
――結局何を聴きに晴明の屋敷を訪れたのかわからなくなった銀は、女の元に行かずにそのまま竹林の中にある家に戻った。
「ぎんちゃん、お帰りなさい」
行儀よく正座をして握り飯を食べていた若葉がにこっと笑ったので、ほっとした銀は隣に腰掛けて若葉の頭を撫でた。