主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
銀は元々優しかったが、時々もっと優しくなることがある。
それは大抵長時間留守をした時であり、家に女を連れ込んだ時であり――決まっていた。
「ぎんちゃんどうしたの?どこか痛い?ぽんぽん痛いの?」
「ん?いや、どこも痛くない。若葉、その握り飯は俺が作ったんだ。美味いか?」
「うん、美味しい。ぎんちゃんありがとう」
…料理などしたことがないのでもちろん握り飯は不格好だったのだが、若葉はにこっと笑って握り飯にぱくつき、銀は台所に行って茶を淹れてやりながら若葉を盗み見た。
相変わらず行儀よく、若葉のひとつひとつの仕草のそこかしこに息吹の影響を感じる。
思えば若葉を拾った後も襁褓の交換や食事の世話などは息吹がやってくれていたし、若葉が物心つくまでは始終傍に居てやったつもりだが…実はそうでもないのかもしれない。
こうして慕ってくれてはいるけれど、我儘のひとつでも言ってくれれば“童子らしい”と安心するものの――
「なあ若葉、なにか欲しいものはないか?なんでもいいぞ、言ってみろ」
「ない。ねえぎんちゃん、お願いがあるの」
「お?どうした?言ってみろ。さあさあ、俺の膝に来い」
素直に膝に上がり込んできた若葉がはじめておねだりをしたので嬉しくなった銀は、口の端についた米粒を取って食べながら顔を覗き込むと、若葉は腕を伸ばして銀の頭上の真っ白な耳に触れた。
「お姉ちゃんが赤ちゃんを生むからお手伝いをしたい。襁褓を替えたりお料理を手伝ったり、赤ちゃんをあやしたりしてあげたいの。ぎんちゃんはいっつもお家に居ないから私が居なくったっていいでしょ?ね、お願い」
「…平安町に行きたい、と言うのか?」
「違うよ、お姉ちゃんのお手伝い。ぎんちゃんも知ってるでしょ?お姉ちゃんのお腹、今にも破裂しちゃいそうだもん。きっと大変だと思うからお手伝いするの」
「…俺と離れていても平気なのか?」
「え?いっつも離れてるでしょ?」
――ずきん、と胸が痛んだ。
若葉がそう感じていたのだということが何故かとても悲しくて、小さな身体をぎゅっと抱きしめた銀は、若葉のきょとんとした声に苦笑した。
「ぎんちゃん?やっぱりどこか痛いの?」
「…ああ、ちょっとだけな。だがすぐに良くなる。…お前はあったかいな」
「抱っこしてあげる。ぎんちゃん、よしよし」
真向かいに座りなおした若葉が小さな腕を精一杯広げて銀を抱きしめた。
銀はそのあたたかさにふいに胸が熱くなり、しばらくの間ずっと俯いていた。
それは大抵長時間留守をした時であり、家に女を連れ込んだ時であり――決まっていた。
「ぎんちゃんどうしたの?どこか痛い?ぽんぽん痛いの?」
「ん?いや、どこも痛くない。若葉、その握り飯は俺が作ったんだ。美味いか?」
「うん、美味しい。ぎんちゃんありがとう」
…料理などしたことがないのでもちろん握り飯は不格好だったのだが、若葉はにこっと笑って握り飯にぱくつき、銀は台所に行って茶を淹れてやりながら若葉を盗み見た。
相変わらず行儀よく、若葉のひとつひとつの仕草のそこかしこに息吹の影響を感じる。
思えば若葉を拾った後も襁褓の交換や食事の世話などは息吹がやってくれていたし、若葉が物心つくまでは始終傍に居てやったつもりだが…実はそうでもないのかもしれない。
こうして慕ってくれてはいるけれど、我儘のひとつでも言ってくれれば“童子らしい”と安心するものの――
「なあ若葉、なにか欲しいものはないか?なんでもいいぞ、言ってみろ」
「ない。ねえぎんちゃん、お願いがあるの」
「お?どうした?言ってみろ。さあさあ、俺の膝に来い」
素直に膝に上がり込んできた若葉がはじめておねだりをしたので嬉しくなった銀は、口の端についた米粒を取って食べながら顔を覗き込むと、若葉は腕を伸ばして銀の頭上の真っ白な耳に触れた。
「お姉ちゃんが赤ちゃんを生むからお手伝いをしたい。襁褓を替えたりお料理を手伝ったり、赤ちゃんをあやしたりしてあげたいの。ぎんちゃんはいっつもお家に居ないから私が居なくったっていいでしょ?ね、お願い」
「…平安町に行きたい、と言うのか?」
「違うよ、お姉ちゃんのお手伝い。ぎんちゃんも知ってるでしょ?お姉ちゃんのお腹、今にも破裂しちゃいそうだもん。きっと大変だと思うからお手伝いするの」
「…俺と離れていても平気なのか?」
「え?いっつも離れてるでしょ?」
――ずきん、と胸が痛んだ。
若葉がそう感じていたのだということが何故かとても悲しくて、小さな身体をぎゅっと抱きしめた銀は、若葉のきょとんとした声に苦笑した。
「ぎんちゃん?やっぱりどこか痛いの?」
「…ああ、ちょっとだけな。だがすぐに良くなる。…お前はあったかいな」
「抱っこしてあげる。ぎんちゃん、よしよし」
真向かいに座りなおした若葉が小さな腕を精一杯広げて銀を抱きしめた。
銀はそのあたたかさにふいに胸が熱くなり、しばらくの間ずっと俯いていた。