主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
地下室の雪男の部屋へ行くのは日に1度と決めていたので、名残惜しげに主さまを送り出した後、息吹はいつものように山姫と一緒に縁側に座って、秋から冬に変わりつつある少し肌寒い空気を楽しんでいた。


「雪ちゃんまだかな…」


「そんなに早く復活できないよ息吹。あんたはしっかり主さまを構っとかないと、1度いじけたら手がつけられなくなるんだからね」


「うん…。私…雪ちゃんのことばっかり考え過ぎだと思う?母様はどう思う?」


平安町の晴明の屋敷から戻って来た山姫は、晴明と夫婦になってからなおいっそう美しくなった。

美しく見られたいのか、普段一切化粧をしなかったのに最近は紅をつけていることもあるし、そして今日は…息吹は山姫の首に大変なものを見つけてしまった。


「は、は、は、母様…っ!く、首に…」


「え?あたしの首がなんだい?」


「く、首に…その…痣が…」


「!み、見るんじゃないよ、あっち向いてな!」


「う、うんっ!」


2人で焦りまくりつつ息吹は真っ赤になりながらそっぽを向き、山姫は首に手拭いをぐるぐる巻いてその証を隠して、ため息をついた。


「晴明…あいつ明日半殺しにしてやる」


「で、でも母様、母様は父様と夫婦だからあっても当たり前だと思うの。…主さまはしないけど」


「え!?主さまは絶対“すごい”と思ってたけど…違うのかい!?」


…何故か夫婦の性生活の話になってしまい、かっかっしてきた息吹と山姫は、膝に『の』の字を沢山書きながら打ち明け合った。


「主さまは恥ずかしがり屋だから…首とか見えるとこにはしないもん」


「独占欲も所有欲もありそうだけどねえ…。噛まれたりもしてないのかい?」


「噛む!?夫婦になってからはされたことないかな。その…父様は?」


「晴明かい?なんだかあたしが精根吸い尽くされそうで毎日たいへ……ちょ、ちょっと何言わせるんだい!?…にやにやするのはやめな!」


雪男の話をしていたはずなのに――

息吹は縁側にころんと寝転がって膝枕をしてもらうと、山姫は愛娘の長くて美しい髪を撫でてやりながら、晴明を想った。


「あんたが屋敷から出て行ってから晴明は抜け殻みたいになっちまったよ。あんたには言わないだろうけど、寂しくて仕方がないみたいなんだ。あたしはあんたの代わりにはなれない。息吹…時々平安町に会いに行ってやっておくれ。主さまにはあたしからも言っておくから」


「母様…私…そんなの知らなかった…。父様…!」


いつも飄々としているので、雪男のことばかり考えて…晴明のことを蔑ろにしていたかもしれない。


――息吹は主さまが帰ってきたらすぐにでもお願いをして、実家に戻って晴明に会いに行きたいと告げようと思った。
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