バイナリー・ハート 番外編
玄関を入ると、ユイが大きな腹を抱えて、笑顔で出迎えた。
以前は抱くたびに小骨が当たってしょうがなかったが、体つきも少し丸みを帯びている。
本人以上に頑固で全く成長しなかったささやかな胸も、我が子のために見違えるほど成長していた。
ユイのように大きな腹を抱えた妊婦は、クランベールでは珍しい。
自然分娩は母子共に様々なリスクを伴うので、安定期に入ったら皆人工子宮に胎児を移してしまうからだ。
ロイドもそうするように勧めたが、ユイは「ニッポンのお母さんは、みんな自分のお腹で赤ちゃんを育てて産むのよ」と言って拒否した。
ブラーヌは相変わらず、遺跡を点々としていて家にいない。
ランシュもロイドと共に、科学技術局に通うようになった。
彼はなるべく早く帰らせるようにしているが、昼間一人になるユイに、何かあってはとロイドは心配だった。
だがロイドの心配をよそに、胎児は何事もなく順調に育っているようだ。
ユイは来月、検診の結果問題がなければ、出産に備えてニッポンに帰る。
医学的にはクランベールの方が進んでいるが、自然分娩に対応できる医師や看護師が、圧倒的に少ないのだ。