バイナリー・ハート 番外編


 二人とも結衣を母親呼ばわりしている時点で、互いを親子だと認めているようなものだと気付いていないのだろうか。
 結衣は思わずクスリと笑う。


「やっぱり、よく似てるわね。あなたたち」


 ロイドは益々顔をしかめ、ランシュはキョトンと首を傾げた。

 三人で食卓に移動し、結衣の作ったケーキを囲んでお茶を飲む。

 ロイドもランシュも甘いものは大好きなので、先ほどまでの不機嫌はどこかに飛んで行ったようだ。
 結衣には分からない機械の話で、時々言葉を交わしながら笑ったりしている。

 ほんの少し前まで殺伐としていた家庭が、まるでウソだったかのように、ゆったりと流れる午後の穏やかな一時に、結衣は幸せをかみしめていた。

 ランシュが家族になって、本当によかったと思う。
 それと同時に、結衣にはひとつの気がかりがあった。

 人だった頃のランシュには、本当の母親がいたのだ。
 そしてロイドの話によると、その人は今も健在だという。

 結衣は思いきってランシュに尋ねてみた。


「ねぇ、ランシュ。うちの子になった事をお母さんにはちゃんと報告したの?」


 ケーキをつつきながらロイドと談笑していたランシュが、心底怪訝な表情で問い返した。


「オレのお母さんは、ユイでしょ?」

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