バイナリー・ハート 番外編
(2)
ユイは少し眉をひそめてランシュを見つめた。
誰の事を言っているのか、ランシュには分かっていなかった。
一瞬、副局長の顔が脳内でピックアップされる。
続いて、知っている限りの女性の顔が、めまぐるしくフラッシュバックした。
けれど母と呼べる人は、ユイの他に見つからない。
ランシュは促すように、首を傾げてユイを見つめる。
ユイは硬い表情のまま、ランシュに教えてくれた。
「ランシュを産んだ人がお母さんでしょ?」
「オレを産んだのは科学技術局の人工子宮だよ。今の身体はオレ自身だし」
ランシュの答に、ユイは少し苛々した調子で言う。
「何言ってるの。実際に産んだのは人工子宮でも、作ったのはお母さんでしょ?」