バイナリー・ハート 番外編
検索に引っかからないはずだ。
あの人の顔をランシュは一度も見た事がない。
自分の生い立ちの一部として、話に聞いただけだ。
「あぁ、あの人の事」
やっと納得してつぶやくと、ユイは非難するようにテーブルの端を軽く叩いた。
「そんな言い方しないの。どんな生まれ方をしたとしても、お母さんがいなければ、ランシュはこの世にいなかったのよ」
確かにその通りだが、ランシュはあの人と血の繋がりがない。
体細胞クローンとして生まれたランシュは、遺伝子の全てをあの人の夫から受け継いだ。
血の繋がりは、今の家族であるユイやロイド先生ともないが、あの人とは一緒に暮らした事はおろか、顔を見た事も口をきいた事もない。
禁忌とされる体細胞クローンを作った事で、ランシュが生まれて間もなく、あの人は刑に服した。
そして今も服役中で、一生牢から出る事はないという。