バイナリー・ハート 番外編
(3)
あっさり許可は下りた。
先生が言った通り、二人きりで話す事は出来ないかららしい。
五日後にあの人に会う事が決まった。
特に感慨もない。
相変わらずあの人本人には興味がない。
母だと言われてもピンと来ない。
ただ、ユイの言った事だけが気になっていた。
あの人のデータを集めようと、記憶の奥底を探ってみる。
けれど元々新生児の記憶など、ないに等しい。
やわらかな温もりに包まれて安心している記憶だけ、かろうじて探り出す事が出来た。
人工子宮を満たした羊水の記憶なのだろうか。
いくら探っても、あの人の顔は出て来ない。
男には分からない理由を、あの人のデータ以外から探り出す事は、ランシュにとって困難を極めた。
なにしろランシュは、女を知らない。
ユイ以外でプライベートな会話を交わした女性すら、片手で数えるほどしかいないのだ。