バイナリー・ハート 番外編
何か糸口のようなものが見えた気がして、ランシュは先を促す。
「ええ。私たち、結婚して十日も経ってなかったのよ」
彼女の夫は貿易関係の仕事をしていた。
世界中を飛び回っている彼と、科学技術局の科学者で変則的な勤務をしている彼女は、なかなか予定が合わず、結婚までも随分時間を費やした。
彼が飛空挺に乗るのはいつもの事だった。
その日もいつもと変わりなく、彼女は笑顔で彼を送り出し、三日後に帰ってくるはずだった彼は、二度と帰ってこなかった。
彼の乗った飛空挺は事故で海に墜落し、乗員乗客全員が死亡。
機体は深海に沈んだため、遺体の上がらなかった者も多い。
彼もその一人だった。
その事故はランシュも知っている。
かつて世話になったおばあちゃんの孫が事故の犠牲者だったからだ。
ひとりでおばあちゃんのところに遊びに来た帰り、事故に遭ったらしい。
飛空挺の事故自体珍しく、これまでに数えるほどしか起きていない。
そのため彼女の事を調べていて、すぐにだどりついた。