バイナリー・ハート 番外編
彼女が悔しいのは、滅多に起きない事故がよりにもよってという事だろうか。
おばあちゃんはそう言っていた。
だが彼の場合は毎日のように乗っているので、よりにもよってというわけでもない。
確かに偶然に見舞われた不運としては、誰でも同じなのだろうが、おばあちゃんの孫より彼の方が、事故に遭う確率は元々高かった。
他にも悔やまれるような事があったのだろうか。
前日にケンカでもしていたとか、何か約束があったとか。
ランシュが考え込んでいると、彼女が見透かしたようにクスリと笑った。
「別にケンカ別れしたわけじゃないの。ただ私たち、二人でいられる事が少なかったから、どうしてもっと二人の時間を大切にしなかったのかと悔しかった」
なんだそんな事かとランシュがガッカリしかけた時「そしてね」と彼女は続けた。
「子どもを作るのを後回しにした事を後悔したの」