バイナリー・ハート 番外編


 彼女も彼も、当時大きな仕事を抱えていた。
 互いに目が回るほど忙しく、他の事にかまけている余裕はなかった。

 合意の上で、子どもを作るのはもう少し先にしようと決めていたのだ。
 そしてそのまま永遠に先送りとなってしまった。

 彼女は少し自嘲気味に笑う。


「二人ともまだ若いし、いつだって子どもを持つ事は出来るから、焦らなくてもいいって思ってたのに、手に入らないと分かった途端、どうしても欲しくなるのは不思議ね」


 ドクリと鼓動が脈打って、ランシュは自分が作られた理由を悟った。
 心の高揚を察知して鼓動が早くなる。
 次の瞬間、視界が赤い幕に覆われた。

 一度に溢れ出した様々な感情や言葉になる前の思考が、瞬時に処理できる情報の許容量を超え、人工知能が警告を発したのだ。

 視界の片隅にランシュにしか見えないメッセージが表示されている。
 感度を上げたセンサも徒になったようだ。

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