バイナリー・ハート 番外編
ずっと誤解していた。
自分の存在は、夫を失い狂気に囚われた女の、愚行が生み出した身代わりだと思っていた。
愛されているのも、求められたのも、自分自身ではなく彼女の夫なのだと。
身代わりではなく自分自身が、彼女を犯罪に走らせるほどに、望まれて生まれてきた。
その事実が、いつも死の影に追い立てられていた、あの薄暗い十八年間に光を与える。
そして、これからも——。
ランシュはガラス越しに、彼女の手に手の平を重ねた。
カウンタに置かれたもう片方の手は、彼女を求めるように小窓に伸びていく。
その手を彼女がそっと握った。
伝わる温もりに再び涙が溢れ出し、ランシュは俯く。
「ごめんなさい。オレはユイに言われるまで、ずっとあなたの事を忘れていました。
今までほとんど気に留めた事もなかったんです。ごめんなさい」
こんなにも愛されていたのに、知りもせず、知ろうともせずに。