バイナリー・ハート 番外編


 彼女はランシュの手をギュッと握る。


「いいのよ、それで。私の事を思い出してもあなたは辛いだけだもの。あなたが幸せでいてくれる事が、私の何よりの願いなんだから。安心したわ。話には聞いていたけど、あなたが元気になってくれて」


 ランシュが面会に来るという情報と共に、遺伝子治療を受けて完全回復したという話も伝わったのだろう。

 それはロイド先生と口裏を合わせた方便だ。
 ランシュが今後も人として生きていくために。

 今のランシュの身体は、彼女が作ったものではない。
 彼女が感じているこの手の温もりも作られたものだ。

 どうして生身のうちに彼女に会いに来なかったのか、それだけが今になって悔やまれる。

 未だに涙をこぼし続けるランシュの手を、彼女が軽く揺すった。


「ほら、ランシュ。もう泣かないで。男の子が簡単に泣くものじゃないわ」
「え?」

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